一般に, 函数 y = f(x) に関し, ある函数 y = g(x) が存在して (定義域内の) どのような x に関しても f(g(x)) = x, g(f(x)) = x が成り立つとき, f と g とは互いに他の逆函数 inverse function という。
三角函数の逆函数に関しては普通, sin, cos, tan の逆函数を考えて, 各々
arcsin x = sin-1 x, arccos x = cos-1 x, arctan x = tan-1 x
と書く。 これらを一纏めにして逆三角函数という。 正弦函数の逆函数は逆正弦函数, 等々という。 因みに, arc は文字通り 「弧」 のことで, 例えば y = sin x の逆函数として x = sin-1 y が返してくる値 x は y に対する 角度 x [rad] であるが, それは単位円の対応する弧の長さに等しいからである。
すぐに分かるように, これらの函数は一価函数 --- つまり x の値に対して返って来る函数の値が一つだけに定まる函数 --- にはならない。 それはこれらの函数が周期函数だから, 周期的に存在するからである。 例えば, arcsin(1/2) = (-1)n(π/3) + nπ, n は整数, である。 同様に逆三角函数は, 普通函数値が一つあれば無限に沢山ある。
そこで, 普通 arcsin の値域を [-π/2, π/2] に, arccos の値域を [0, π] に, arctan の値域を (-π/2, π/2) に制限したものが用いられる。 これらの区間を, 逆三角函数の主枝 main branch という。 それ以外にも逆三角函数を一価函数にするような値域は幾つか存在するが, それらの一つ一つは枝 branch と呼ばれている。
主枝に値域を制限した逆三角函数を各々
y = Arcsin x = Sin-1 x,
y = Arccos x = Cos-1 x,
y = Arctan x = Tan-1 x
と書く。 これらの値を各々その逆三角函数の主値 (しゅち) という。
一般にこれらの主値と, 全ての値との関係は, n を整数とするとき
sin-1 x = (-1)n Sin-1 x + nπ,
cos-1 x = ±Cos-1 x + 2nπ,
tan-1 x = Tan-1 x + nπ
となっている。
練習: 証明せよ
(1) cos (Sin-1 x) = ,
-1 ≦ x ≦ 1.
(2) Sin-1 x + Cos-1 x = π/2, -1 ≦ x ≦ 1.
(3) Tan-1x + Tan-1 (1/x) = π/2 (x > 0 のとき),
-π/2 (x < 0 のとき).
(4) Tan-1 (1/2) + Tan-1 (1/3) = π/4.
解:
(1) θ = Sin-1 x と置くと, sin θ = x で, cos(Sin-1 x) = cos θ.
-π/2 ≦ θ≦ π/2 より, cos θ ≧ 0 である。従って
(2) 先ず (1) と同様に, sin(Cos-1 x) =
.
これと (1) を用いて,
cos (Sin-1 x + Cos-1 x ) = cos(Sin-1 x)x - x
sin(Cos-1 x)
= x - x
= 0.
故に Sin-1 x + Cos-1 x = Cos-1 0 = π/2.
(3) θ = Tan-1 x と置くと, x = tan θ. 1/x = 1/tan θ = cot θ = tan(π/2 - θ).
故に x > 0 ならば 0 ≦ θ < π/2 なので Tan-1 (1/x) = π/2 - θ = π/2 - Tan-1 x.
x < 0 の場合は, -π/2 < θ ≦ 0 であるから, π/2 ≦ π/2 - θ < π である。従って, 主値であることを考えると tan は π が周期だから 1/x = tan(π/2 - θ) = tan(π/2 - θ - π) = tan(-π/2 - θ). 従って Tan-1 (1/x) = -π/2 - θ = -π/2 - Tan-1 x.
(4) tan(Tan-1 (1/2) + Tan-1 (1/3))
= (tan(Tan-1 (1/2)) + tan(Tan-1 (1/3)))/(1 - Tan-1
(1/2)Tan-1 (1/3))
= (1/2 + 1/3)/(1 - (1/2)・(1/3)) = (5/6)/(1 - (1/6))
= (5/6)/(5/6) = 1 = tan(π/4).
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