Riemann 積分


定積分の定義については大体 「積分 1」 の 「面積」 にだいたい書いたのだが, それを更に精密化しよう。

積分区間を I = [a, b] (-∞ < a < b < ∞) とし, それを n - 1 個の中間点 x1, x2, ..., xn-1 によって n 個の細区間に分割する。 この分割に Δ という名前を与え,

Δ:   a = x0 < x1 < x2 < … < xn-1 < xn = b

とする。 この分割において, 各細区間 Ii = [xi, xi-1] の幅を δi = xi - xi-1 (> 0) とする。 そうしておいて,

δ(Δ) = maxi δi

即ち, 各細区間の幅の最大値を, 「この分割 Δ の幅」 と呼ぶことにする。


さて取り敢えず f(x) は I 上有界とする。 分割 Δ の各細区間から ci ∈ Ii をとり

S(Δ, c) = Σi=1n f(cii

を考える (これを普通 Riemann 和という)。 もしも 「分割の仕方 Δ に拠らず, 更に中間点の組 {ci} の選び方に拠らず, δ(Δ)→0 となるとき一様に S(Δ, c) が一定の値 J に収束する」 ならば f(x) は I で積分可能或いは可積 integrable といい, J を I 上の f(x) の定積分 definite integral (Riemann 積分) と呼ぶ。

J = ∫ab f(x) dx = ∫I f(x) dx

と書く [Georg Friedrich Bernhard Riemann, 1826 -- 1866]。

積分の値を求めることを積分する integrate といい, f(x) を被積分函数 integrand, a を積分の下端 (下限), 上端 (上限) ということは前の通りである。


Darboux (Jean Gaton, 1842 -- 1917) は同じことを次のように定義した。 後で Lebesgue 積分論を読むときの参考になるので, 掲げておく。 多分 Darboux は Archimedes 伝来の取り付くし法 method of exhaustion を踏襲したのであろう。

積分区間 I の分割 Δ に従って

m = infI f(x), M = supI f(x),
,

と各々定義する (f が I 上連続ならば inf は min に, sup は max に換えて良い)。 明らかに m = mini mi, M = maxi Mi. 前の Riemann 和にならって

sΔ = Σi=1n miδi, SΔ = Σi=1n Miδi

と定義すると, 明らかに上記の {ci} の選び方に拠らず,

sΔ ≦ S(Δ, c) ≦ SΔ

が成り立つ。 さて, I の任意の二つの分割 Δ, Δ' を考える (一方が他方を更に細かく分割したものとは限らないので, 分点 xi, x'i は共通のものもあるかもしれないが, 多くは一方にはあるが他方にはないという状況にあるだろう)。 これらの分点の集合を合併して出来た集合 {xi}∪{x'i} によって新たに生ずる分割を Δ'' としよう。 すると, 例えば Ii を Ii1, Ii2 の二つに分割したとき mi1 ≧ mi, mi2 ≧ mi, δi1 + δi2 = δi なのだから mi1δi1 + mi2δi2 ≧ miδi1 + miδi2 = miδi であるあり, 同様のことは Mi に関しても言えるから

sΔ ≦ sΔ'' ≦ SΔ'' ≦ SΔ, sΔ' ≦ sΔ'' ≦ SΔ'' ≦ SΔ'.

つまり任意の二つの分割 Δ, Δ' に関して sΔ ≦ SΔ', sΔ' ≦ SΔ. 更に I はそれ自体が一つの分割 (n = 1 の場合) と見做すことが出来 (このときの分割を I と書いてしまうことにすると), sI = m(b - a), SI = M(b - a) であるから

m(b - a) ≦ sΔ ≦ SΔ ≦ M(b - a).

従って可能な全ての分割 Δ に関し{sΔ}, {SΔ} は有界である。 Darbouox に従って

_∫ab f(x) dx = supΔ sΔ, ˉ∫ab f(x) dx = infΔ SΔ,

と表し, 各々 f(x) の I 上の Riemann 不足積分, Riemann 過剰積分と呼ぶ (本当は _ は∫の真下, ˉ は∫の真上に書きたいのだが, Microsoft 数式 editor で上手く書けなかったのでこういう表記にしておく。 尚∫_ab と書くと ∫-ab (積分の下端が -a) と紛らわしいので通常とは違い後ろではなく前に書くことにした)

都合上 f に関する sΔ を sΔ(f) 等と表すことにすると明らかに sΔ(-f) = -SΔ(f), SΔ(-f) = -sΔ(f), _∫ab (-f(x)) dx = -ˉ∫ab f(x) dx, ˉ∫ab (-f(x)) dx = -_∫ab f(x) dx である。

下記の定理でだけ s(Δ) = sΔ, S(Δ) = SΔ という記号を用いている (下付き添字の関係)。

定理 [Darboux]

δ(Δk)→0 となるような任意の分割の列 {Δk}, k=1, 2, ... に関し

limk→∞ s(Δk) = _∫ab f(x) dx, limk→∞ S(Δk) = ˉ∫ab f(x) dx.

Reimann 不足積分, 過剰積分の定義によって, 任意の ε > 0 に対して, 適当な分割 Δ = Δ(ε) が存在して

0 ≦ _∫ab f(x) dx - s(Δ) < ε/2

と出来る。 一般に m ≦ M なのだが, 等号の成立しない場合即ち m < M の場合のみが本質的。 その時, n を分割数として, 適当な K (∈ N) が存在して k ≧ K なる限りにおいて δ(Δk) < ε/(2n(M - m)) と出来る。

今, 分割 Δ と Δk を合併して生ずる分割を Δ'k とし, Δk の細区間 Ii に Δ からの分点が加わってIi1, Ii2 の二つに分割されたとすると, 前に述べたように mi1 ≧ mi, mi2 ≧ mi, Mi1 ≦ Mi, Mi2 ≦ Mi, δ'i1 + δ'i2 = δi なのだから, そこで差を考えると mi1δ'i1 + mi2δ'i2 - mi(δ'i1 + δ'i2) = (mi1 - mi)δ'i1 + (mi2 - mi)δ'i2 ≦ (M - m)δ'i1 + (M - m)δ'i2 = (M - m)δi ≦ (M - m)δ(Δk). しかも, Δ の分点は n - 1 個だから, 高々この n - 1 倍だけが影響を与えるので

0 ≦ s(Δ'k) - s(Δk) ≦ (n - 1)(M - m)δ(Δk) < ε/2 (for k ≧ K).

よって k ≧ K なる限りにおいて

_∫ab f(x) dx ≧ s(Δk) > s(Δ'k) - ε/2 ≧ s(Δ) - ε/2 > _∫ab f(x) dx - ε.

(最初の不等号は不足積分の定義 (上限) から, 次の不等号はすぐ上の不等号, その次は s(Δ) は分割数が増えると増加するという性質から, その次は Δ(ε) を定めた不等式から) 従って

k ≧ K ⇒ 0 ≦ _∫ab f(x) dx - s(Δk) < ε.

f の代わりに -f を考えれば

k ≧ K ⇒ 0 ≦ S(Δk) - ˉ∫ab f(x) dx < ε.□

定理:

f(x) が区間 I で可積であるための必要十分条件は

_∫ab f(x) dx = ˉ∫ab f(x) dx

で, しかもこの時, これらの値は Riemann 和による積分 ∫ab f(x) dx と一致する。

証明:可積

f(x) が区間 I で可積と仮定する。 このとき, ε > 0 を任意にとると, それに対し ci, c'i ∈ Ii が存在して

0 ≦ f(ci) - mi < ε/(4(b - a)), 0 ≦ Mi - f(c'i) < ε/(4(b - a))

が成り立つ。 従って

0 ≦ Σi=1nf(cii - sΔ < ε/4, 0 ≦ SΔ - Σi=1nf(c'ii < ε/4

が成立する。 仮定により δ(Δ) < δ = δ(ε) である限りにおいて

Σi=1nf(cii > ∫ab f(x)dx - ε/4, Σi=1nf(c'ii < ∫ab f(x)dx + ε/4

であるから

sΔ ≦ SΔ < Σi=1nf(c'ii + ε/4 < ∫ab f(x)dx + ε/2 < Σi=1nf(cii + 3ε/4 < sΔ + ε.

従って Riemann 過剰積分, 不足積分の定義から

0 ≦ ˉ∫ab f(x) dx - _∫ab f(x) dx ≦ SΔ - sΔ < ε.

従って _∫ab f(x) dx = ˉ∫ab f(x) dx.

逆に, _∫ab f(x) dx = ˉ∫ab f(x) dx であるとすれば sΔ ≦ S(Δ, c) ≦ SΔ から極限をとって _∫ab f(x) dx ≦ ∫ab f(x) dx ≦ ˉ∫ab f(x) dx であるから。□

こうして Darboux 流の定義では過剰積分と不足積分の値が一致するということが可積の定義として採用されるのである。


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