正弦公式


所謂 「正弦定理」 である。 正弦定理を述べる前に, 定理を三つ証明しなくてはならない。

定義

一つの円において, 弧 AB と, 弧 AB 上にはない円周上の別の点 C とが与えられているとき, ∠ACB を弧 AB に対する円周角 angle of circumference, inscribed angle という。

[円周角定理]

一つの円周において, 一つの弧 AB に対する円周角は皆等しく, 対応する中心角の半分である。

証明: 先ず弧が円周の半分よりも小さい場合についてのみ証明すればよいことに注意しておく。 弧がそれよりも大きい場合は, 半分 (でなければとにかく円周の半分より小さい二つの部分) に分割して足算すればよい。

さて, では先ず第一に, 弦の一方 (例えば AC) が半径と一致している場合を考える。

この場合, 左の図から

OB = OC.

即ち △OBC は二等辺三角形で, 従って

∠OCB = ∠OBC.

ところが中心角 ∠AOB は △OBC の外角だから

∠AOB = ∠OCB + ∠OBC = 2∠OCB = 2∠ACB.

そうでない場合は, 図を見れば明らかであろう。

(左の図では足算, 右の図では引算を考える)

半円に対する円周角を 「直径の上に立つ円周角」 「直径に対する円周角」 と呼ぶことがある。

系 [Thales (ターレス)]

直径に対する円周角は直角である。

[定理]

円に内接する四辺形において, 対角の和は平角 (π) に等しい。

図より明らか。 各自証明せよ (練習問題)。

[外心定理]

△ABC の三点の垂直二等分線は一点で交わる。

証明: 辺 AB の中点を H, 辺 BC の中点を D, その各々から垂線を引き, 交点を I とする。 二辺夾角相当で

△AHI ≡ △BHI,
△BDI ≡ △CDI.

故特に

AI = BI = CI.

だから △AIC は AI = CI の二等辺三角形。 故点 I から辺 AC に垂線を下ろした足を E とすると △AEI ≡ △CEI. 故 AE = CE. 即ち EI は辺 AC の垂直二等分線である。□

定義

三角形の各辺の垂直二等分線の交点を外心 circumcenter, center of circumcircle という。 又, この時, 外心を中心として三角形の三頂点を通る円が描ける。 この円をこの三角形の外接円 circumcircle, circumscribed circle という。

(ここまでは以前は中学でやったものだったが, 最近は高校の数学 A に移ってきたので, 一応ちゃんと証明した)


[正弦公式 (正弦定理)]

△ABC の外接円の半径を R とする。 この時

BC/sin ∠BAC = 2R.

先ず, 両辺とも長さの 「次元」 を持っているから左辺は 長さ/三角比 という形をしていなければならない。 それから左辺の方は辺と角を色々変えてみると BC/sin ∠BAC = CA/sin ∠CBA =  AB/sin ∠ACB = 2R という形に出来ることが分かる。

証明: 先ず ∠BAC が鋭角の場合:

外接円の直径 BA' を引くと Thales の定理により,

 ∠BCA' = π/2.

又, 弧 BC に対する円周角より,

∠BAC = ∠BA'C.

従って定義から

sin ∠BAC =  sin ∠BA'C = BC/(2R).

次に ∠BAC が直角の場合を見ると, それは図を見れば正弦の定義から明らか。 又 ∠BAC が鈍角の場合は図で, ∠BA'C = π - ∠BAC であるから sin sin ∠BAC =  sin(π -∠BA'C) =  sin ∠BA'C = BC/(2R).

さて, では第二余弦公式から正弦公式を BC/sin ∠BAC = CA/sin ∠CBA =  AB/sin ∠ACB の形で証明しよう。 実際

sin2∠BAC = 1 - cos2∠BAC = ((2AB・AC)2 - (AB2+AC2-BC2))/(2AB・AC)2
= (2AB・AC + AB2+AC2-BC2)(2AB・AC - AB2-AC2+BC2)/(2AB・AC)2
= ((AB + AC)2 - BC2)(BC2 - (AB - AC)2)/(2AB・AC)2
= (AB + AC + BC)(AB + AC - BC)(BC + AB - AC)(BC - AB + AC)/(2AB・AC)2.

ここで 0 < ∠BAC < π だから, sin ∠BAC > 0. 従って

BC/sin ∠BAC = 2AB・BC・CA/√((AB + AC + BC)(AB + AC - BC)(BC + AB - AC)(BC - AB + AC)).

この式は, AB, BC, CA に関して対称だから, A→B→C→A と巡回的に文字を入れ替えて CA/sin ∠CBA も AB/sin ∠ACB も同じ値になることが分かる。

今度は正弦公式から第一余弦公式を示してみよう。 実際正弦公式から

AB = 2R sin ∠BCA, BC = 2R sin ∠BAC.

これらより (加法公式を用いて)

AB cos ∠BAC + BC cos ∠BCA
= 2R(sin ∠BCA cos ∠BAC + sin ∠BAC cos ∠BCA)
= 2Rsin (∠BCA + ∠BAC).

ここで ∠BCA + ∠BAC + ∠ABC = π より

AB cos ∠BAC + BC cos ∠BCA = 2Rsin (∠BCA + ∠BAC) = 2R sin(π - ∠ABC) = 2R sin ∠ABC = CA□

従って, 二つの余弦公式と正弦公式とは互いに同値であることが分かった。


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