Scalar 倍のところで少しだけ well-definedness のことについて言及したが, それについての補足である。
その前に well-defined というのは何かというと, 定義の整合性といったような意味である。
あまり気にならない人は難しいので飛ばして良い。
[有理数倍について]
有理数倍の well-definedness (定義の整合性) というのはどこが問題になるかというと, そこでも一寸述べたが, 先ず, 既約でない分数についても同じ vector が定義されるかという問題と, 定義の一意性である。
先ず第一に, 定義の一意性であるが, r = n/m (m > 0) が既約分数として, ra が x, y と二つ存在したとしよう。 定義によって mx = na, my = na であるから, 辺々引いて mx - my = na - na. 即ち m(x - y) = 0. m > 0 より x - y = (1/m)0 = 0. 従って x = y である。
更に, r = n/m = n'/m' と分数として二つ以上の表現があったとしよう。 この時, 分数が等しいことの定義から nm' = n'm である (分母を払う為に mm' 倍した rmm' を考えれば良い)。
従って (n/m)a = (nm'/(mm'))a = (n'm/(mm'))a = (n'/m')a となってどちらでも等しくなる。
[実数倍について]
特に無理数の場合が問題であるが, 実数 α に対して, 有理数の基本列 {rk} で limk→∞ rk = α となるものが存在するから, これについて vectors の列 {rka} を考えると, これも基本列になっている。 即ち
∀ε > 0 ∃N < ∀n∀m (|rna - rma| = |rn - rm||a| < ε)
と出来るので, これで αa = limk→∞ rka として定めることが出来る。