瞬間の速さ


[review 復習]

その傾斜角が 54.72° の斜面を摩擦がなく滑る物体の, 滑り始めてから x 秒後の斜面上の位置 y [m] は y = 4x 2 で表される。


今考えている問題は二つ。 つまり

  1. 1 秒後, つまり x = 1 のときの瞬間の速さは, 本当に 8.00 m/s といって良いのか ?
  2. 他の時刻, 例えば 2 秒後の時の瞬間の速さを計算するのに, 毎回, これの前のページでやったみたいに, いっぱい計算をしなくちゃいけないのか ?

ということだった。

先ず, 書き方を簡単にする為に, y = f(x) = 4x2 と書くことにしよう。 こう書くと, 1 秒後の位置は, x に 1 を代入したということで y = f(1) = 4×12 = 4 となり, 2 秒後の位置は x に 2 を代入したということで y = f(2) = 4×22 = 16 となり, ...... 一般に a 秒後の位置は x に a を代入したということで y = f(a) = 4a2 ということになる。

さて, 最初の問題, 1 秒後の瞬間の速さは, どうも 8 m/s みたいな気がするが, 本当にそうかという問題を考えてみよう。

前のページでは 1 秒後の位置と, それにかなり近い幾つかの時刻の間で, 位置を計算して, 距離を求め, 速度の式にしたがって, 平均の速さを求めていったのだった。これだけでも大変だから, 先ずその 1 秒後にかなり近い時刻っていうのを, もう少し明確に表現したいと思う。

かなり近いっていうのは, 時刻の差 h が小さいということだ。 ここで h を用いたのは習慣に従ったまでで, 他の文字がよければそれでもいい。ただ, 他の参考書を見るときに紛らわしいから, そうしただけ。 寄らば大樹の陰 (笑)。 一寸だけ注意しておくと h は + とは限らなくって - かも知れないよ。

つまり, 1 秒後の位置と比較されるべきなのは (1 + h) 秒後の位置なんだね。 (1 秒後と, (1 + h) 秒後の差は h 秒だよね。)

それぞれの位置を計算しておこう。1 秒後の方は, さっきもやったように y = f(x) = 4x2 だったから, f(1) = 4 だ。もう一つの (1 + h) 秒後の位置は同様に f(1+h) = 4(1 + h)2 = 4(1 + 2h + h2) だね。 ここで多分中学校のときにやった公式 (乗法公式): (a + b)2 = a2 + 2ab + b2 を用いているよ。いい ?

さて, もう一度速さの公式を書こう。

だったよ。いいかな ? これに従って, 1 秒後の瞬間の速さを計算しよう。

一寸難しいかな ? 一行目から二行目に行く所では, 分配法則 Ma - Mb = M(a - b) を使ってるんだよ。つまり 4(1 + 2h +h2) - 4 = 4(1 + 2h +h2) - 4×1 = 4(1 + 2h +h2 - 1) だね。 それから, 三行目から四行目に行く所では, 分配法則を逆に使っているんだね。つまり普通の言い方では h で(くく)っているのね。最後の所は h で約分しているのね。

さて, これで, 1 秒後から (1 + h) 秒後までの平均の速さが, 厳格に 4(2 + h) [m/s] であることが分かったわけだ。

我々が求めたかったのは, 平均の速さじゃなくって, 1 秒後の瞬間の速さだよね。 でも一寸待ってよ。今求めたのは, 1 秒後から (1 + h) 秒後までの平均の速さじゃない ? 時刻が h 秒だけずれていると, 速さも 4(2 + h) = 8 + 4h [m/s] なんだよね。 っていうことは, 時刻の差 h が 0 になったら, 瞬間の速さも, この式 4(2 + h) = 8 + 4h に h = 0 を代入しちゃえばいいんじゃない ? そうするとほら, 予想通り瞬間の速さが 8 m/s になるでしょ ?

ほんとにそれでいいの ? と思うかもしれないけれど, そしてニュートンの時代の人もかなり多くの人がそう思ったわけね。 でもそれでいい事にしちゃいましょう ! っていうのが解析学っていう学問の基本姿勢なわけ。 本当はもう一寸精密に議論するのだけれど, それは難しいから又あとで。とりあえず, それでいいってことにしちゃいましょう (笑)。

さて, こうやって求めた瞬間の速さのことを, 数学では特別な記号 ' (prime プライム) を用いて f'(1) と書きます --- html だと見にくいね (^_^;。 そして, 函数 y = f(x) の x = 1 における微分係数 differential coefficient といいます。 瞬間の速さを求める前 --- つまり h に 0 を代入する前 --- の 「平均の速さ」 の方は, x = 1 から x = 1 + h までの平均変化率と呼ばれています。

そして, 最後になって h に 0 を代入するよっていうのを, 特別な記号 lim を用いて

と書きます。 求まる値を, その式の h → 0 における極限値 limit value といいます。

従って函数 y = f(x) の x = 1 における微分係数は先程のことから

となるわけです。 当然 x = 1 じゃなかったら ? って思うでしょ ? それでその答えもすぐわかるでしょ ?

つまり, 函数 y = f(x) の x = a における微分係数は

ですよね。これで最初の問題の二番目にもほぼ答えたことになります。

最初の函数 y = f(x) = 4x2 について, x = a における微分係数を定義通り計算すると

となるわけです。従って, もし x = 2 にしたければ, a = 2 を代入して f'(2) = 8×2 = 16 [m/s] という答えを得るわけです。

このように, 微分係数を x の値の各々について計算するのはとてつもなく面倒です。 しかし, 今のように, 一般の文字でやっておいて, あとで代入しても, lim の計算一つはそれほど面倒さは変わらず, 各々の文字でやるよりも, 代入した方がはるかに簡単なので, 普通, こういう風に一般に計算しておくやり方が取られます。 この一般に微分係数を生成する函数 y' = f'(x) を元の函数 y = f(x) の導函数 derived function といいます。

ちゃんとした定義として書くと, 函数 y = f(x) に関し

をその導函数と呼ぶわけです。 そして, ある函数 y = f(x) の導函数を求めることを, その函数を微分するといいます。


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