等比数列の極限


極限の計算のところで述べた 4 番目の内容である。

[定理]

r > 1 ⇒ limn→∞ rn = ∞.
r = 1 ⇒ limn→∞ rn = 1.
-1 < r < 1 ⇒ limn→∞ rn = 0.
r ≦ -1 ⇒ {rn} は n → ∞ の時発散 (振動) する。

[系]

数列 {rn} が n → ∞ の時収束するための (必要且十分) 条件は

-1 < r ≦ 1.

1 の方の等号を忘れないようにしよう。

これから伝統的な証明を書くが, 計算するという立場からすると, 証明自体は別に重要ではない。 飛ばして例に行きたい人はここ

補題 [Bernoulli ベルヌーイ]

n ∈ N, h > 0 ⇒ (1 + h)n ≧ 1 + nh.

等号は n = 1 の時のみ成立する。

これは二項定理の右辺を第二項で打ち切ったものだから当然であるが, 数学的帰納法で証明しておく。

証明

n = 1 の時 (1 + h)1 ≧ 1 + 1・h は等号が成立するので, 成り立つ。

n = k の時, 即ち (1 + h)k ≧ 1 + kh の成立を仮定する。 この両辺に (1 + h) を掛けると (1 + h)k(1 + h) ≧ (1 + kh)(1 + h) であることに注意しておく。

n = k + 1 の時

lhs = (1 + h)k+1 = (1 + h)k(1 + h) ≧ (1 + kh)(1 + h) = 1 + kh + h + kh2
= 1 + (k + 1)h + kh2 > 1 + (k + 1)h = rhs.

(∵ kh2 > 0)■

定理の証明

1. r > 1 の場合。

h = r - 1 と置くと, r > 1 より h > 1. 従って Bernoulli の不等式より

rn = (1 + h)n ≧ 1 + nh.

ところが h > 0 なので, limn→∞ (1 + nh) = ∞. 従って極限の所に述べた定理により limn→∞ rn = ∞.

2. r = 1 の場合。

明らかに全ての n で rn = 1. だから limn→∞ rn = 1.

3. -1 < r  < 1 の場合。

先ず r = 0 の場合は, r = 1 の場合と同様に, limn→∞ rn = limn→∞ 0 = 0.

従って r ≠ 0 とする。 このとき t = 1/|r| と置くと (0 < |r| < 1 だから) t > 1. 従って, r > 1 の場合から tn = 1/|r|n → ∞ as n → ∞.

従って, |rn| = |r|n = 1/tn → 0 as n → ∞. 従って |limn→∞ rn| = 0. 即ち limn→∞ rn = 0.

4. r ≦ -1 の場合。

r = -1 の場合は既出

r < -1 の時は |r| > 1 で r = -|r| なのだから, rn = (-1)n|r|n. 符号は偶数番目と奇数番目で互いに逆符号, 更に |r| > 1 だから limn→∞ |rn| = ∞ なので発散 (振動) する。■


(1) limn→∞ ((2n+2 + 3n+1 + 1)/(2n+1 - 3n + 2)).

先ず 2∞+1 = ∞ 等に注意して直接代入すると不定形であることはすぐに分かるであろう。 この場合の極限値を求める場合にも, 最初の方針 「(分母の) 最高次で割る」 を用いる。 但しこのような場合, 「最高次」 とは次のように考える。

定数 < n < n2 < n3 < …… < 2n < 3n < 4n < ……

つまり今の場合, 3n が 「最高次」 なので, これで分子, 分母を割る。

(2n+2 + 3n+1 + 1)/(2n+1 - 3n + 2) = (2n・22 + 3n・31 + 1)/(2n・2 - 3n + 2)
= ((4・2n + 3・3n + 1)/3n) / ((2・2n - 3n + 2)/3n)
= (4・(2/3)n + 3 + (1/3)n)/(2・(2/3)n - 1 + 2・(1/3)n)
→ (4×0 + 3 + 0)/(2×0 - 1 + 2×0) = -3, as n → ∞.

lim を用いて書くと

limn→∞ ((2n+2 + 3n+1 + 1)/(2n+1 - 3n + 2))
= limn→∞ ((4・(2/3)n + 3 + (1/3)n)/(2・(2/3)n - 1 + 2・(1/3)n)) = -3.

(2) limn→∞ ((r-n - rn)/(r-n + rn)).

このように lim の式中に r という文字が出て来ている場合は, page 冒頭に掲げてある定理の分類に従って場合分けするのが常套手段ではある。 しかし, この問題の場合には --- やってみると分かるが --- もう少し少ない分類で済む。 尚 r-n が出て来ているので r = 0 であることはあり得ない。

i) |r| > 1 の場合。

|r|n → ∞ に注目して,

(r-n - rn)/(r-n + rn) = (1/rn - rn)/(1/ rn + rn) … 指数法則
= (1/ r2n - 1)/(1/ r2n + 1) ……… 分子分母を rn で割った
→ (0 - 1)/(0 + 1) = -1, as n → ∞.

(∵ r2 > 1 だから 0 < 1/r2 < 1 で, 1/ r2n = (1/r2)n.)

ii) r = ±1 の場合。

(r-n - rn)/(r-n + rn) = (1/ r2n - 1)/(1/ r2n + 1) = (1 - 1)/(1 + 1) = 0.

だから limn→∞ ((r-n - rn)/(r-n + rn)) = 0.

iii) 0 < |r| < 1 の場合。

rn → 0 に注目して, 分子分母を rn 倍する。

(r-n - rn)/(r-n + rn) = (1 - r2n)/(1 + r2n)
= (1 - (rn)2)/(1 + (rn)2) → (1 - 0)/(1 + 0) = 1, as n → ∞.

(3) 数列 {x2n} が収束するための x の値の範囲を求めよ。

x2n = (x2)n で x2 ≧ 0 だから, これが収束するのは x2 ≦ 1 即ち x2 - 1 = (x - 1)(x + 1) ≦ 0 の時。 即ち -1 ≦ x ≦ 1 の時。

(4) 数列 {(x/(1 - x))n} が収束するための x の値の範囲を求めよ。

収束条件は -1 < x/(1 - x) ≦ 1.

i) 1 - x > 0 の時。

x - 1 < x ≦ 1 - x. 左側は自明, 右側から x ≦ 1/2.

ii) 1 - x < 0 の時。

x - 1 > x ≧ 1 - x. 左側が不能 (-1 > 0) 故, これはあり得ない。

以上より x ≦ 1/2.

(5) 数列 {(2x)nsin(nπ/2)} が収束するための x の値の範囲を求めよ。

{sin(nπ/2)} は 1, 0, -1, 0, 1, 0, -1, 0, ....... と振動する数列なので, 収束する条件は (2x)n → 0 as n → ∞. 即ち -1 < 2x < 1. 故に -1/2 < x < 1/2.


ここの話が理解できると, 形を変えたアキレスと亀の話が理解できるので, 興味のある人は, ここを見よう。


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