集合と論理記号


さて vectors から少し離れて, 書く手間を省く為に, 集合という概念と記号を少しだけ導入しよう。 集合論をやるわけではないので多少厳密性に欠けるところもある。


[集合と要素]

或る定まった条件 (数学的条件と思っていて良い) を満たすものの全体というものを考え, それを集合 set という。 そして, 集合に含まれる個々のもの, 集合を構成している一つ一つのものをその集合の要素 element という。

集合は普通英大文字で表し, A, B 等と書く。 それに対し, 要素の方は小文字で a, b, x, y などと表す。

要素 x が集合 A の要素であることを x ∈ A,  A ∋ x と書く。 この記号 ∈ は 「x は A である」 ということを意味するギリシャ語の頭文字から来ている (Cohen が作ったという)。 一方 y が A の要素ではないということを y Ï A と書く (A ∋ x に合わせた方もあるのだが Symbol という font にないので省略する) 。 但し / の書き方は \ の場合と | の場合とある。 Symbol には / しかないので, web 上ではこの記号以外は多分見ないであろう。 場合によっては 「〜でない」 を表す論理記号 ¬ を前に書いて ¬y ∈ A  と表す (こちらの方が font の問題が起こりにくいので, この site ではこちらを多用するかもしれない)。

今, 集合 A は三つの要素 x1, x2, x3 だけからなるというとき A = {x1, x2, x3} と書く。 又, φ(x) が x に関する条件 (例えば 1 ≦ x < 2) を表しているとき, この条件を満たす要素は集合を作る (置換公理 comprehension axiom)。 それを {x|φ(x)}, {x: φ(x)}, {x; φ(x)} と書く (ここで | とか : とか ; とかは単なる区切りの記号, x は代表として使っているだけなので他の文字でも良い。 例えば {x|φ(x)} = {y|φ(y)} である)。 例えば {x | 0 < x < 5, x は整数} = {1, 2, 3, 4} といった具合である。

条件によっては要素が一つもないことがあり得る。 例えば {x| x > 0 且つ x < -3} といった類である。 こういうのも集合の仲間に入れておくと便利である。 こういう集合を空集合 empty set, null set といい Æ と書く (本当は 0 に / である。 Donald E. Knuth: TeXbook による)。 つまり, どのような x を持ってきても x Ï Æ である (空集合を {} と書く流儀もあるが, 見にくいので余り使われない)。


[部分集合, 和集合, 共通部分]

最初に少し論理記号の説明をする。

A 且つ B を A∧B
A 又は B を A∨B
A ならば B を A⇒B

と書く。 又 「φ(x) が全ての x について成り立つ」 ということを ∀xφ(x) と書く。

さて, ∀x(x ∈ A ⇒ x ∈ B) が成り立つとき, A はすっぽりと B に含まれている (contained) と考えられる。

このようなとき A は B の部分集合 subset である, B は A の superset であるといい A ⊆ B, B ⊇ A と書く。 明らかに (外延性公理 axiom of extensionarity)

A ⊆ B ∧ B ⊆ A ⇒ A = B

である。 そこで A ⊆ B ∧ A ≠ B であるとき A ⊂ B, B ⊃ A と書き, A は B の真部分集合 proper subset であるという (多くの著者は真部分集合を特別視する必要性を余り感じないので A ⊂ B で単なる部分集合を表していることが多い)。

さて, ここで一つ注意をしておく。 「A ならば B」 即ち 「A⇒B」 についてであるが, これは

(A⇒B) ⇔ (¬A∨B)

と理解する。 普通の言葉で言えば 「『A ならば B』 とは 『A が成り立たないか又は B が成り立つこと』 を意味する」 ということである。 従って, A が成り立たないとき, A⇒B は無条件で成立すると考えるのである。 この理解の下で, 部分集合の定義の式の A が空集合であるとすると x ∈ Æ は (∀x Ï Æ だから) 不成立である。 従って ∀x(x ∈ Æ ⇒ x ∈ B) は B が何であっても成立すると考える。 よって, B がどのような集合であっても

Æ ⊆ B

は成立する。 つまり空集合は全ての集合の部分集合である。 特に

ÆÆ.

ところで P(A) = {X| X ⊆ A}, 即ち, A の部分集合全体の集合を A の冪集合 power set of A という。 例えば, P({1, 2, 3}) = {Æ, {1}, {2}, {3}, {1, 2}, {1, 3}, {2, 3}, {1, 2, 3}} である。

集合 A の要素の個数を Card(A) とか #A とか書く (Card は cardinarity の略, # は USA で number を意味する)。 上記のように Card(P(A)) = 2Card(A) が成立する (多分そういう意味で 「冪 (べき)」 というのだと思われる)。

さて, A∪B = {x| x ∈ A ∨ x ∈ B} を A と B の和集合 union という。

又, A∩B = {x| x ∈ A ∧ x ∈ B} を A と B の共通部分 intersection という。

(集合の記号と論理の記号が似ているのは単なる偶然ではない。)

これらについて

k=1n Ak = A1∪A2∪A3∪…∪An
k=1n Ak = A1∩A2∩A3∩…∩An

と略記する。

次のことが成立するのは明らかであろう。

[冪等律] A ∪ A = A, A ∩ A = A,
[交換法則] A∪B = B∪A, A∩B = B∩A.

更に次の弱完全分配律が成立する (証明略):

(∪k=1n Ak)∩B = ∪k=1n (Ak∩B),
(∩k=1n Ak)∪B = ∩k=1n (Ak∪B).

又, 次の包除原理 principle of inclusion and exclusion が成立する:

Card(∪k=1n Ak) = Σk=1n Card(Ak) - Σj<k Card(Aj∩Ak) + Σh<j<k Card(Ah∩Aj∩Ak) - …+ (-1)n-1Card(∩k=1n Ak).

これの証明は n = 2 の時の式 Card(A∪B) = Card(A) + Card(B) - Card(A∩B) と数学的帰納法による。

ここまでに出て来たような集合に関する縄張りの図を Venn 図 (Venn diagram) という。


[差集合, 全体集合, 補集合]

A\B = {x| x ∈ A ∧ ¬ x ∈ B}

を A と B の差集合という。 屡々 A - B とも書かれる。

数学では多くの場合最初に前提となる集合が定まっている。 そういう集合を考えるとき, 前提となっているその集合を全体集合といい, 屡々 U と書く (universe とか universal set の頭文字である)。 この時, 考える集合は全てその全体集合 U の部分集合である。

全体集合を U とするとき

Ac = U \ A を A の補集合 compliment set という。 明らかに A∩Ac = Æ, A∪Ac = U (全体集合の U と和集合の記号 ∪ が紛らわしいので気をつけること) であり, (Ac)c = A である。 更に次の De Morgan の法則が成立する。

(A∩B)c = Ac∪Bc, (A∪B)c = Ac∩Bc.


[代表的な集合]

N = {0, 1, 2, 3, ...}

は自然数の集合である (日本の高等学校までの教育では自然数には 0 を含めないが, 数学の専門分野では多くの場合 0 も自然数に含まれる。Natural number の n である)。

Z = {0, ±1, ±2, ±3, ...}

は整数の集合である。 記号 Z はドイツ語の Zahlen (数) から来ていると言われている。 因みに英語で整数は integer である。 この記号を使うと N = {x| x ∈ Z∧ x ≧ 0} ⊂ Z.

さて, 正の整数を Z+ = {x| x ∈ Z∧ x > 0} = {1, 2, 3, ...} で表す。 同様に負の整数を Z - = {x| x ∈ Z∧ x < 0} = {-1, -2, -3, ...} で表す。 又

Q = {0, ±1, ±1/2, ±2, ±1/3, ±3, ±1/4, ±2/3, ±3/2, ...} = {n/m| m ∈ Z∧m ≠ 0∧n∈ Z }

は有理数の集合である。 上記と同様に Q+ = {x| x ∈ Q∧ x > 0}, Q- = {x| x ∈ Q∧ x < 0} と定義し Q * = Q+Q- = Q\{0} と定義する。 この Q * は有理数の乗法群と呼ばれている。

更に実数の集合を R と書き, R+, R-, R * についても同様に定義する。


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