二次形式


この page でも係数体は R とする (C の時は双線型性の定義が異なるから)。


前の page では ab = taI2b であることを確かめた。 ここでは I2 を一般の行列にしたものを考えよう。 つまり

BA(a, b) = taAb = a・(Ab)

である。 この時 k を scalar として, 明らかに

BA(a1 + a2, b) = BA(a1, b) + BA(a2, b),
BA(a, b1 + b2) = BA(a, b1) + BA(a, b2),
BA(ka, b) = BA(a, kb) = kBA(a, b)

が成立する。 この三つを合わせて, BA双線型性 bilinearity といい, BA を行列 A の定める双線型形式 bilinear form という。

双線型形式の ab が同じであるもの, 即ち

QA(x) = BA(x, x) = x・(Ax) = txAx

を行列 A の定める二次形式 quadratic form という。 ここで A = (ajk), x = (xj) として書き下すと

QA(x) = (x1 x2) ( a11 a12 )( x1 )  = (x1 x2) ( a11x1 + a12x2 )
a21 a22 x2 a21x1 + a22x2

= a11x12 + a12x1x2 + a21x1x2 + a22x22
= a11x12 + (a12 + a21)x1x2 + a22x22.

従って, S =  (     a11   (a12 + a21)/2 )  という行列を考えてみると
(a12 + a21)/2    a22

QA = QS となることが分かる。 今後二次形式はこのような行列 S で表されているものとしよう。 この行列 S は tS = S という特徴をもっており, BS(x, y) = BS(y, x) が成立することからも対称行列 symmetric matrix と呼ばれている。

今, 対称行列 S を

S =  ( a b )
b c

と置く。 これは QS(x, y) = ax2 + 2bxy + cy2 と置いたのと同じである (x = (x, y) である)。

さて, これから S の固有値と固有ベクトルを求めよう。 定義から S の固有方程式は

ΦS(t) = det ( t - a -b )
-b  t - c

= (t - a)(t - c) - b2
= t2 - (a + b)t + ac - b2 = 0.

従って

t = (a + c ± √((a + c)2 - 4(ac - b2)))/2
= (a + c ± √((a - c)2 + 4b2)/2

が固有値である。 今 a, b, c ∈ R であるから (a - c)2 + 4b2 ≧ 0. 従って二次対称行列の固有値は二つとも実数である。

先ず t = (a + c + √((a - c)2 + 4b2)/2 としよう。 この時, これに対応する固有ベクトルを p1 とすると, 定義より (tI2 - S)p1 = 0 即ち

(1/2) ( -a + c + √((a - c)2 + 4b2)    -2b ) p1 = 0.
    -2b          a - c + √((a - c)2 + 4b2)

従って, その一つとして

p1 (

2b

)
-a + c + √((a - c)2 + 4b2)

があるが, e1 = p1/|p1| と置くと, これも固有ベクトルであることは直ぐに分かる。 又今度は t =  (a + c - √((a - c)2 + 4b2)/2 と置くと, 同様に

(1/2) ( -a + c - √((a - c)2 + 4b2)    -2b ) p2 = 0
    -2b          a - c - √((a - c)2 + 4b2)

だから, 固有ベクトルの一つとして

p1 ( a - c + √((a - c)2 + 4b2) )

2b

があるが, e2 = p2/|p2| とすればこれも固有ベクトルの一つであって, 直ぐ分かるように,

|e1| = |e2| = 1, e1e2

であるから, P = (e1 e2) と置くと, これは正則な直交行列x' = Px という変換をすると

QS(x') = QS(Px) = t(Px)S(Px) = tx(tPSP)x

= tx ( (a + c + √((a - c)2 + 4b2)/2        0 ) x
       0          (a + c - √((a - c)2 + 4b2)/2

= (a + c + √((a - c)2 + 4b2)(x1)2/2 + (a + c - √((a - c)2 + 4b2)(x2)2/2.

以上より, 全ての二次形式は適当な直交変換によって, 標準形

α1(x1)2 + α2(x2)2, α1, α2R

に変換されることが分かった。


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