最初前節の一部として書いていたら長くなったので page を新たに起こした。
定義:
閉区間 I の分割 Δ に関して, vΔ = Σk=1n |f(xk) - f(xk-1)| を考える。 I に関する全ての可能な分割 Δ に関する vΔ の上限
V = supΔ vΔ
とする。 もしも V が有限値ならば, V を区間 I に於ける函数 f(x) の全変動 (総変動量, 又は変動の純量) といい, f(x) は I に於いて有界変動 variation bornée, beschränkter Schwankung, bounded variation (Jordan の用語) であるという。
定理:
有界変動 ⇒ 有界
証明: c ∈ I = [a, b] を分点とする分割を考えると |f(x) - f(a)| ≦ |f(x) - f(a)| + |f(b) - f(x)| ≦ V であり, 三角不等式から |f(x)| - |f(a)| ≦ |f(x) - f(a)| なのだから |f(x)| - |f(a)| ≦ V 即ち |f(a)| ≦ V + |f(a)|.□
さて, 有界変動の定義に於ける vΔ = Σk=1n |f(xk) - f(xk-1)| の各項 summand |f(xk) - f(xk-1)| に於いて, その中身 f(xk) - f(xk-1) が正 (+) であるものだけを足し合わせたものを pΔ, 負 (-) であるものだけを足し合わせたものを -nΔ と表すことにする。 この定義は
posit(x) = (x + |x|)/2, negat(x) = (x - |x|)/2
と定義 (positive part, negative part の意味) したときに
pΔ = Σk=1n posit(f(xk) - f(xk-1)), nΔ = -Σk=1n negat(f(xk) - f(xk-1))
と表したものに等しい。 この定義から明らかなように, pΔ ≧ 0, nΔ ≧ 0, pΔ + nΔ = vΔ, pΔ - nΔ = f(b) - f(b) (最後の等式は要するに lhs = Σk=1n (f(xk) - f(xk-1)) だから) である。
定義:
函数 f(x) が閉区間 I に於いて有界変動であるとするとき, 区間 I の全ての分割 Δ に関する pΔ, nΔ も有界である。 そこでそれらの上限
P = supΔ pΔ, N = supΔ nΔ
を各々 f(x) の I に於ける正変動, 負変動という。
定義より直ちに P + N = V, P - N = f(b) - f(a) を得る。
さて, f(x) が I = [a, b] で有界変動とするとき, a < x ≦ b となる x に関する [a, x] 上の f(x) の正変動, 負変動, 全変動を各々 P(x), N(x), V(x), P(a) = N(a) = V(a) = 0 とすれば, これらは I 上の増加函数となる。 すぐ上に述べたことから P(x) + N(x) = V(x), P(x) - N(x) = f(x) - f(a) である。
定理 [Jordan の分解定理]
閉区間 I =[a, b] で定義された f(x) について
I 上有界変動 ⇔ 有界な増加函数の差で表せる。
証明:
先ず有界変動ならば f(x) = P(x) - N(x) + f(a) だから f(x) は有界な増加函数 P(x) と N(x) - f(a) の差で表されている。
逆に f(x) に対し, 有界な増加函数 g(x), h(x) が存在して f(x) = g(x) - h(x) と書けたとしよう。 このとき I の任意の分割 Δ に対して
|f(xk) - f(xk-1)| = |g(xk) -
h(xk) - g(xk-1) + h(xk-1)| = |g(xk)
- g(xk-1) - (h(xk) - h(xk-1))|
≦ |g(xk) - g(xk-1)| + |h(xk) - h(xk-1)|
= g(xk) - g(xk-1) + h(xk) - h(xk-1).
(最後の所は g, h は共に増加函数だから) となって, k について足し合わせることによって vΔ ≦ g(b) - g(a) + h(b) - h(a) となり, 右辺は分割 Δ に拠らないから V は有限である。□
定理:
函数 f(x), g(x) が閉区間 I = [a, b] で有界変動 ⇒ f(x) ± g(x), f(x)g(x) も I 上有界変動。
更に |g(x)| ≧ k > 0 ⇒ f(x)/g(x) も I 上有界変動
証明: 函数 φ の I に於ける全変動を Vφ などと表すことにする。 明らかに Vf±g ≦ Vf + Vg. 次に K ≧ max(supI |f(x)|, supI |g(x)|) とすると I の任意の分割 Δ に関して
|f(xi)g(xi) - f(xi-1)g(xi-1)|
= |g(xi)(f(xi) - f(xi-1)) + f(xi-1)(g(xi)
- g(xi-1))|
≦ K(|f(xi) - f(xi-1)| + |g(xi) - g(xi-1)|)
だから Vfg ≦ K(Vf + Vg). 又
|f(xi)/g(xi) - f(xi-1)/g(xi-1)|
= |(f(xi)g(xi-1) - f(xi-1)g(xi))/(g(xi)g(xi-1))|
= |(g(xi-1)(f(xi) - f(xi-1)) + f(xi-1)(g(xi)
- g(xi-1))/(g(xi)g(xi-1))|
≦ (K/k2)(|f(xi) - f(xi-1)| + |g(xi)
- g(xi-1)|)
だから同様である。□
区間 [a, b] で定義された有界変動な函数 f(x) に関し, 部分区間 [c, d] でのその全変動, 正変動, 負変動を各々 V(c, d), P(c, d), N(c, d) で表すことにすると, 明らかに V(a, b) = V(a, c) + V(c, d). 従って P(x) + N(x) = V(x), P(x) - N(x) = f(x) - f(a) であったから, P, N に関しても同様の式が成り立つ。 更に一般に (有限の) 分割 Δ に関して V(a, b) = Σk=1n V(xk-1, xk) が成立する。 このように有界変動な函数 f(x) の変動 V, P, N は各々区間に関して加法的 additive である。
区間 I = [a, b] で f(x) が有界変動なばかりでなく連続であるとしよう。 このとき P(x), N(x) が従って V(x) も亦連続である。
実際, もしも c ∈ I に於いて P(x) が右に連続でなかったと仮定しよう。 区間に関して加法性があるのだから, 最初から c = a として良い。 即ち P(a) = 0, P(a + 0) = q > 0. f(x) は連続と仮定されているから, N(a + 0) = q でなければならない (f(x) = P(x) - N(x) + f(a) だった)。 従って x ≠ a の時 p(x) = P(x) - q, n(x) = N(x) - q で p(a) = n(a) = 0 と置き直すと, 再び f(x) = p(x) - n(x) + f(a) であり, V(x) ≦ p(x) + n(x). しかし一方 V(x) = P(x) + N(x) = p(x) + n(x) + 2q だから矛盾している。
I = [a, b] に於て f(x) が区分的に単調であるならば有界変動である。 しかし, 連続であるからといってそれだけでは有界変動にはならない。 例えば f(x) = x sin(1/x) に於ける全変動は (4/π)(1/3 + 1/5 + 1/7 + … ) より大きいが, これは発散するから有界変動ではない。 勿論有界変動の函数は連続とは限らない (連続函数を一点で切って片方を少し持ち上げても有界変動)。
定理:
I = [a, b] 上有界変動の函数は可積。
上記のように, 有界変動の函数は有界な増加函数の差で表されるから, 有界な増加函数が可積であることが分かればよい。 がそれは前 page の Dirichlet 函数の例のすぐ下で示したので分かっている。□