定義と相等


前の introduction で考えたように, これから大きさ (長さ) と向きとを同時に併せ持つような量を考えるが, それをどのように表したらよいであろうか ?

Introduction の解答の所の図に表されているように, 昔から向きと大きさとを表すためには矢印が使われて来た。 つまり, 矢の向いている方向を向き, 矢を作っている線の長さを大きさとして来た。 そこで次のように定義する (定義とは数学用語を新しく決めるということ)。

[定義 definition]

線分 AB に, A から B への向きがつけられていると考えられるとき, この線分 (矢印) を有向線分 directed segment, oriented segment といい, (「から」 に当たる) 点 A を始点 initial point, (「へ」 に当たる) 点 B を終点 terminal point という。

通常, 有向線分は上の図のように, 終点側に矢を表す鏃 (やじり) のような記号 (∧) をつけて表す。 そして有効線分 AB を線分 AB と区別するために, 日本の教科書では と書くことが多いが, この site では図中ではそう表記してあるだろうが, 本文中では AB と書くことにする。 すぐ分かるように ABBA は (向きが) 違う。

そして, 意味は同じようだと思うのであるが, 有向線分 AB を決して とは書かない (見にくいかもしれないが矢の向きが逆, これは数式 editor で書いたものなので, もしかしたら数学以外ではこういう逆向き矢印も使うのかもしれない)

又, 有向線分 AB は AB のことで, 有向線分 BA とは BA のことであるから, 紛らわしいが間違えないようにしよう。

有向線分 AB 即ち AB の長さは, 線分 AB の長さで表される。 そして, AB の長さのことを記号 |AB| で表す。 長さのことを大きさ, 又は絶対値とも言う。


さて, これから, 無限に沢山ある有向線分の間に 「等しい」 という 「関係」 を入れたり, 複数の有向線分を 「加える」 などの 「操作」 を考えて 「構造」 を入れていく。 このような 「構造」 の定められた有向線分達を ベクトル vector と呼ぶ (中国では向量という)。

では, 二つの有向線分 (即ち vectors) が 「等しい」 ということはどのようにして決めたら良いだろうか ?

Introduction で述べたように, vector (有向線分) で表される量として, 「力」 があるわけだ。 そこで考えなくてはいけないのは, 力に関して実験をすれば, (関東でいえば) 東京でやっても, 横浜でやっても, 千葉でやっても, 結果は同じであるはずである。 ところがその事が vectors にも反映されていないと, vectors というものを考えても意味がなくなってしまう。 そこで二つの有向線分は平行移動 (平行に動かす, 平行にずらす) ことによって向き (矢 ∧) も含めてぴったり重なるとき, しかもその時に限って等しいと決めることにする。

[定義]

二つの有向線分 AB, CD は,
(1) それらの始点, 終点について, 条件 A = C, B = D (即ち始点も終点も同じ) か,
(2) 同一直線上にあって AB = CD 且つ, 点の順番が (A, B, C, D) か (A, C, B, D) か (C, A, D, B) か (C, D, A, B) の何れかである (つまり順番も含めてずれている) か,
(3) 四角形 ABDC が平行四辺形となる
時, しかもその時に限って等しいといい, AB = CD と書く。

(2) の順番に関する条件は煩わしいが, 良く考えてみるとそういう条件をつけておかないと色々まずいことが起こることが分かる。

さて, 上記のように考えていくと, 同じ一つの vector AB = CD = … 等を違う記号で書いていると非常に煩わしいことに気が付く。 そこで同一の vector を表すのに a, b, c, d, ... の様に Latin alphabet (英文字) の小文字の太字斜体で表す (又は英文字小文字の上に → を描いて表す)。 習慣として大文字は用いないし, とか とか, とかいうのも用いない (用いてもいいだろうが, 本文と紛らわしくなるのでやめた方がいい)。

上記の相等の定義は昔から端的に 「二つの vectors は 長さと向きが等しいとき, しかもその時に限って等しい」 と言い表されて来た。

上記のように矢印によって導入された vectors を矢線ベクトルなどということがある。


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