「標準基底と成分」 に対応して, 列ベクトル
を列ベクトルの標準基底 canonical basis という。 今 P を正則行列とし, P = (pi) をその列分解とする。 この時明らかに
pi = Pei … (1)
が成り立つ (実はこれ自体は別に P が正則でなくても成り立つ)。 仮定より P は正則だから, p1 || p2 とすると 「逆写像と逆行列」 の二つの定理の間に書いてあることに矛盾する。 従って p1, p2 は一次独立, 従って一つの基底である。 このことからも正則変換は全射であることが分かる。
又, 正則とは限らない一つの行列が (1) によって pi を定めているとしよう。 この時定義から P = (pi) となるが, P の定める一次変換が単射ならば
a1p1 + a2p2 = 0
と仮定すると, 単射なのであるからこれは (原像に引き戻して) a1e1 + a2e2 = 0 を意味し, 従って = a2 = 0. 従って p1, p2 は一次独立である。
以上より次のことが分かる。
定理
一次変換 f に対し次のことは同値
- f が正則
- f が全射
- f が単射
証明: 2. ⇒ 3. を示せばよい (そこ以外は証明済み)。 今 f を定める行列が P = (pi) であるとする。 仮に f が単射ではないと仮定すれば
∃b1∃b2(b1 ≠ b2 & Pb1 = Pb2)
であるが差をとると b1 - b2 ≠ 0 & P(b1 - b2) = 0 だから, 最初から ∃a ≠ 0(Pa = 0) と仮定してよい。 さて ei が標準基底なので a = a1e1 + a2e2, a12 + a22 ≠ 0 となる a1, a2 があるが, Pa = a1p1 + a2p2 = 0 である。 従って p2 = kp1, k≠ 0 と仮定して良い。 この時全ての x について x = x1e1 + x2e2, x12 + x22 ≠ 0 となる x1, x2 があるが, この x に関し
Px = x1p1 + x2p2 = x1p1 + x2kp1 = (x1 + x2k)p1.
従って全射であるという仮定に反する□
この定理 (とその証明) から, 一組の基底 {pi} が与えられれば, 行列 P = (pi) は正則行列を定めることが分かる。
又, 二つの基底 {ai}, {bi} が与えられたとしよう。 同一の vector x について
x = α1a1 + α2a2 = β1b1 + β2b2
と書けたとする。 この時この式は 「行ベクトルと列ベクトル」 に書いたことによって形式的に
(a1 a2) = (b1 b2) … (2)
と書けることが分かる。 しかし先に述べたように (b1 b2) は正則行列だから
= (b1 b2)-1(a1 a2)
となる。 ここで P-1 = (b1 b2)-1(a1 a2) と置くと, これは正則行列である。即ち
= P-1… (3)
これを (2) に代入すると
(a1 a2) = (b1 b2)P-1
これが全ての で成立するから
(a1 a2) = (b1 b2)P-1 … (4)
である。 逆に正則行列 P を与えて (4) 即ち
(b1 b2) = (b1 b2)P … (5)
で, vectors {bi} を与えると, これは ({ai} が基底ならば) 基底になる。 式 (4) 又は (5) より P (又は P-1) は基底の変換行列と呼ばれる。
注意:
P の決め方は (3) から見ると不思議な決め方になっているが, 実は (5) が最初にあったのである。 即ち (5) で P = (pjk) とすると
(bk) = (p1ka1 + p2ka2)
という形になる。 この vector の形での変換から見ると, (5) の定義が自然であることが分かる。