前頁では A = の逆行列を求めるために連立一次方程式
a11x + a12y + a13z = α, … (a)
a21x + a22y + a23z = β, … (b)
a31x + a32y + a33z = γ … (c)
を解いたわけだが, ここでは前頁とは違う解き方をしてみる。
(b) と (c) とから
a21x + a22y = β - a23z, … (b')
a31x + a32y = γ - a33z … (c')
であるが, これを x, y の方程式として解くと, Δ = a21a32 - a22a31 と置いて
x = (a32β - a22γ + (a22a33 - a32a23)z)/Δ,
y = (-a31β + a21γ + (a23a31 - a21a33)z)/Δ.
(a) を Δ 倍してから, 上記二つを代入すると
a11(a32β - a22γ + (a22a33 - a32a23)z) + a12(-a31β + a21γ + (a23a31 - a21a33)z) + a13(a21a32 - a22a31)z = (a21a32 - a22a31)α.
これを整理すると
(a11(a22a33 - a32a23) - a12(a23a31 - a21a33) + a13(a21a32 - a22a31))z = (a21a32 - a22a31)α - (a11a32 - a31a12)β + (a11a22 - a12a21)γ
となる。 前頁の解と比較してみると
det(A) = a11(a22a33 - a32a23) - a12(a23a31 - a21a33) + a13(a21a32 - a22a31)
であることが分かる。 これが行列式の一つの新しい性質である。 今は z についてやったが, 同じ事を x 又は y にやっても同様になるはずなので, 次のような式が得られることが分かる。
[Laplace 展開, この場合は特に Laplace 行展開]
又, 定義式 det(A) = a11a22a33 + a12a23a31 + a13a21a32 - a11a23a32 - a12a21a33 - a13a22a31 を良く見て前の添字と後ろの添字を全部入れ替えてもこの式自体は変化しないことが分かるので,
det(A) = det(tA), t は転置
が分かる。 だから上記の Lapalace (ラプラス) 展開に於ても, 行ではなくて列で展開できることも分かる。
前頁の方程式 (a), (b), (c) の解の所を良く見てみると
a11x + a12y + a13z = α,
a21x + a22y + a23z = β,
a31x + a32y + a33z = γ
の解は次の式で与えられることが分かる。
[Cramér の公式] (クラーメル)
次の公式は Laplace 展開の式から直ぐに証明できる。
[多重線型性 multilinearity]
, &c.
二つの行 (又は列) を入れ替えると符号が変わる。 つまり
[交代性 alternativity]
, &c.
特に同じ行が二つあると 0 に等しい。
この二つから, ある行を定数倍して違う行に加えても行列式の値は変わらない, 同様にある列を定数倍して違う列に加えても行列式の値は変わらない, ということが分かる。
上記の性質に加え, 三次の単位行列 I3 に対する値 det(I3) = 1 という性質を加えると, これらだけで, 行列式 det というものは決定するということが知られている。