多項式の除法


多項式の割り算をやる前に, 先ず小学生になった気分で, 整数の (余りのある) 割り算について復習しておこう。

考える問題は 129937÷1023 です。

除数 divisor 1023 は 4 (けた) なので, 被除数 dividend, divident 129937 を上から 4 桁まで区切り, 1299 と見ます。 1299 の top の数 1 と 1023 の top の数 1 を見比べて, 割り算すると 1 なので, 1299 のすぐ上に 1 と書きます。 (多くの場合は繰り上がりがあるのでこれほど簡単には行かなかったことも, 一寸思い出しておきましょう。)

1023×1 の答えをすぐ下に書き, 1299 - 1023 を計算します。 (引き算であることを忘れないで下さい)

被除数 1299 のすぐ下の位 3 を下ろしてきます。

2763 と除数 1023 の top の数字同士を見比べ 2÷1 = 2 なので, 被除数 12993 の 3 の上に 2 と書き, 1023×2 の結果を 2763 のすぐ下に書きます。 2763 - 2046 = 717 を求め, 被除数の一位の数字 7 をおろしてきます。

7177 と除数 1023 の top の数字同士を見比べ, 7÷1 = 7 であるから, 被除数 129937 の 7 の上に 7 を書き, 1023×7 = 7161 を 7177 のすぐ下に書きます。 7177 - 7161 = 16 を求めます。

こうして 129937 を 1023 で割ると, 商 (quotient) が 127, 余り (remainder) が 16 であることが分かりました。

余りについて注意を一言 ! 余りは常に除数よりも小さかったのでしたね。 何故かというと, もしも除数より大きいか等しいとすると, 商がもっと大きくなるからです。

さて, もう一つ注意しておきましょう。 上でやったように, 129937 を 1023 で割ると 16 余るわけですが, 最初から 129937 - 16 を 1023 で割ったらどうなるでしょう

すぐ, 余りが 0 であることが分かりますね ? 商はいくつになりますか ? 同じ 127 であることが分かりますか ? ということは

12997 - 16 = 1023 × 127

であることが分かったわけですね。

一般的に述べる為に, 被除数を a, 除数を b (≠ 0), 商を q, 余りを r (但し 0 ≦ r < |b|, |x| は x の絶対値) とするとこれは

a - r = bq

を意味しているわけです。 普通 r を移項して, 次のような形で述べられます。

[除法定理 division algorithm]
整数 a, b (b ≠ 0) に対し, 整数 q, r (但し 0 ≦ r < |b|) が唯一組存在して

a = bq + r.

余り r の範囲については (特に b < 0 のときに) 他の範囲にすることもあることを一寸だけ注意しておく。

数学の定理で 「アルゴリズム algorithm」 という言葉がついているのは, これとユークリッド互除法 Euclidean algorithm 位しか私は知らない。


ではいよいよ多項式を多項式で割る割り算をやってみよう。 考えているのは, 係数が有理数で, 変数 (超越元) が x だけのものである。 例として (6x5 - 5x4 + 6x3 - 8x2 - x + 3) ÷ (3x2 - x + 1) を計算しよう。 整数では 1 の位, 10 の位, 100 の位, ... と並んでいたものが + - の他, 分数が出てくるかもしれないけれど, 定数 (x0) の位, x (= x1) の位, x2 の位, x3 の位, ...... と並んでいると考えれば, 殆ど同じである。

整数と同じように縦に書いて, 被除数 (式だが...) と除数の top の式 6x5 と 3x2 に着目します。

(6x5) ÷ (3x2) = 2x3 なので, --- 何故か整数のときと位置がずれているが --- 6x5 のすぐ上にこの 2x3 を書き, (3x2 - x + 1) × (2x3) をその下に書きます。 そして引き算し, すぐ下の 「位」 - 8x2 をおろしてきます。

再び除数の top 3x2 と, 今引き算した結果の式の top -3x4 とを比較し, (-3x4) ÷ (3x2) = -x2 なので, これを -5x4 のすぐ上に書きます。 そして(3x2 - x + 1) × (-x2) を計算し, 引き算し, 一つ下の位をおろしてきます。

同様にして, 今度は x が立ちますね ?

次は -2 が立ちますね ?

次数が除数よりも低くなってしまったので, もうこれで終わりです。

このように, 式の大小関係に相当するものとしては次数を使います。

式 P の x に関する次数を degx P と書きます。 変数が x しかないなど, 紛れのないときは, x を省略して deg P と書きます。 (0 以外の) 定数の次数は 0 です。

0 の次数については意見がいろいろあって, (1) 0 とする立場 (定数だから), (2) 考えないとする立場 (普通は deg (PQ) = deg P + deg Q なのだが, deg 0 = 0 とするとこれが成立しないので), (3) -∞ とする立場 ((2) を解消するため) と三つあります。 ここでは (1) か, (3) にしておきます。

そうすると, 先程の除法定理が次のような形で成立します。

[除法定理]
有理数係数の多項式 A, B (但し B ≠ 0) に対し, 有理数係数の多項式 Q, R (但し deg R < deg B) が (定数倍を除いて) 唯一組存在し,

A = BQ + R.

この場合の商は正確には整商 integral quotient と呼ぶようです。


準備の目次へ。