私の感じとしてはあんまり使ったことのない性質なのだが --- それはあんまり深い数学をやっていない所為かもしれない --- 適当なところがないのでここで掲げておく。
ここで学んでおいて欲しいのは 「一様性 uniformity」 である。 (とは言え, 実はそれは一様収束 uniformly converge というところでその重要性を発揮するのだが。) 一様とはどういうことかというと, 英語の方を見てもらえばそれは uniform という言葉から一寸想像してみて欲しい。 大体日本の数学用語は欧米の用語の直訳が多いので, 英語で見た方が意味が分かることが多い。 ユニフォームというと日本では野球だのサッカーだのスポーツの, 或いは blue color の労働者の 「制服」 を意味している。 「制服」 という言葉と 「ユニフォーム」 という言葉が分離しているのは, ある場面では説明を省けて楽だが, それらが 「同じものである」 という認識を妨げていけない。 「制服」 というとそれは事務員や学校のユニフォームしか思い浮かばなくなっているのは不幸であり, それらも英語では uniform である。
話がそれすぎてしまったが, 要するに uniform とは, 「皆一緒」 ということだと考えて宜しい --- 制服は皆が着る一緒の服に過ぎない。 従って連続の一様性といえばそれは 「連続が皆一緒」 ということだ。 ここでの 「一緒」 とか 「皆」 とかいうのをきちんと述べるためには, どうしても ε-δ で連続を述べておく必要があり, 従ってどうしても高校 level の数学では扱えないのである。
連続の定義に返ってみると f(x) が x = a で連続であるとは
∀ε > 0 ∃δ > 0 (|x - a| < δ ⇒ |f(x) - f(a)| < ε)
ということであった。 「ε」 が最初だから, まぁ ε は決まっているものと考えておく。 そうすると, 最初 「誤差 ε で押さえたい」 と思っていても, それを満たす x の範囲を限定している δ は a の値に依存しているだろう。 言い換えれば δ は a の値によってふらふらと変わる。,だから実は δ は a の函数のように振る舞うだろう。 a がある区間 I に属しているとき, δ を上手く採れば, I に属する全ての a に関して, |x - a| < δ ⇒ |f(x) - f(a)| < ε を満たすようにできるかもしれない, とあなたは考えるかもしれない, しかしそのようにしようとすると δ = 0 にせねばならなくなってしまうという例が実際に存在する。
f(x) = 1/x, 0 < x < 1 を考えよう ( < 1 は別に 1 でなくても良いのだが, 考えを決めるために 1 にしておいた)。 このとき |f(x) - f(a)| = |1/x - 1/a| = |x - a|/(ax) であり, |x - a|/(ax) < ε とは |x - a| < εax のことだから -εax < x - a < εax. これを x を主体に解くと a/(1 - εa) < x < a/(1 - εa). 従って -εa2/(1 - εa) < x - a < εa2/(1 + εa). だから, 0 < a < 1 で, |x - a| < δ ⇒ |f(x) - f(a)| < ε を満たすようにする為には δ ≦ εa2/(1 + εa) と採らなくてはならない。 がよく考えてみると 0 < a < 1 だから a → 0 の所を考えてみると δ → 0 となってしまい, 結局一般には上手くいかないのである。 この現象は, 要するに, 区間の端点に於て, f(x) が ∞ に 「飛んで」 いて, その為に, a = 0 の近くである δ で押さえた範囲で f(x) の差を測ろうとすると, まるで逃げ水のように f(x) の方の差が引き伸ばされて逃れていくのである。 筆者は本質的にこのような例以外には (連続であって) 連続の一様性を満たさないものを知らない。
上記の例では, 端点 0 は不連続点で, しかもそこは区間には含まれていないのであった。 だから端点をも含めて連続であるような函数ならば一様連続になる可能性がある。 実際そのような全ての函数は一様連続性を満たすのである (つまり a に拠らない同じ δ で挟んだ区域で不等式 |f(x) - f(a)| < ε が一様に満たされる --- δ が皆一緒)。
定義: 区間 I で定義された函数 f(x) が連続で, 且つ
∀ε > 0 ∃δ > 0 ∀a ∈ I (|x - a| < δ ⇒ |f(x) - f(a)| < ε)
の時 f(x) は区間 I で一様連続 uniformly continuous であるという。
一様 uniform をドイツ語では平等 gleichmässig という。
∀a ∈ I の位置に注意。 普通の連続は敢えて書けば ∀a ∈ I ∀ε > 0 ∃δ > 0 (|x - a| < δ ⇒ |f(x) - f(a)| < ε) である。 δ は a には拠らないというところは幾ら強調しても強調しすぎるということはない。
一寸補足しておくと, 論理式 ∀ε > 0 ∃δ > 0 ∀a ∈ I (|x - a| < δ ⇒ |f(x) - f(a)| < ε) は次のように読んでいく:
先ず ε > 0 は勝手に選んで良い。 ε を決めると, それにつれて δ > 0 が決まる (存在する)。 この ε と δ が決まるともう, 区間 I の中のどのような点 a をとっても |x - a| < δ を満たす限りにおいて必ず |f(x) - f(a)| < ε が満たされる。
このようなときに f(x) は一様連続であるというのである。
定理 [Heinrich Eduard Heine, 1821 -- 1881]
閉区間 I で連続な函数 f(x) はそこで一様連続である。
これの証明のために次の Heine-Borel-Lebesgue の被覆定理を述べておく (これは次元が高くても成立し, 位相幾何学の言葉を用いて言えば, 有界閉集合は compact であるということである)。
定理 [Heine, Borel, Lebesgue]
最初に与えられた閉区間 I があるとする。 これに対し閉区間からなる集合 J があり, 性質 ∀x ∈ I ∃K ∈ J (x ∈ K) を満たすとする (つまり I の任意の点を含む J の要素である閉区間 K が存在する)。 このとき (J 自身は無限集合であっても) J の中から有限個の区間 Ki, i = 1, 2, ..., m を選んで I ⊂∪i=1m Ki とすることが出来る。
注意: ∪i=1m Ki = K1∪K2∪…∪Km である。 又, 最初の条件 I ⊂ ∪K∈J K を J は I を被うというので, この定理を被覆定理と呼ぶのである。
証明:
簡単の為に I = [a, b] とする。 端点 a は少なくとも一つの K' ∈ J に含まれている。 従って a の充分小さな近傍は K' に含まれているとして良い。 従って, 区間 [a, x] が J の有限個の区間で被われている (それらの和集合に含まれる) という性質は, x が a の充分近くにあるときは満たされている。 従って E = {x | x ∈ (a, b], [a, x] が J の有限個の区間で被われている} という集合を考えると, それは空集合ではない。
さて y = sup E とする (sup の定義はここ)。 y < b ということはあり得るであろうか ? もしそうだとすれば, a < x < y となる y に充分近い x を採れば [a, x] は (y が E の上限だから) J の有限個の区間で被われている。従って x が十分 y に近いので, ある K" ∈ J が存在して, [x, y] ⊂ K" となるから, y 自体も E の要素となる。 これは仮定 (y = sup E) に反するので, y = b でなければならない。 a < x < b に関しては [a, x] が J の有限個の区間で被われているので, x を b に充分近く採り, これに [x, b] を含む J の要素である一つの区間を加えれば, I = [a, b] 自体が完全に J の有限個の区間で被われる。□
さて, では Heine の一様連続性の定理の証明をしよう。
閉区間 I = [a, b] で函数 f(x) が連続であるから, 勝手な c ∈ [a, b] で
∀ε > 0 ∃δ(ε, c) > 0 (|x - c| < δ(ε, c) ⇒ |f(x) - f(c)| < ε/4)
である (δ が ε と c の函数であるように振る舞うはずなので δ(ε, c) と書いている)。 ここで K(c) = (c - δ(ε, c), c + δ(ε, c)) という開区間を作り, J = {K(c)| c ∈ I} とする。 明らかにこの J は I を被う。 そこで上記 Heine-Borel-Lebesgue の被覆定理により, 有限個の区間 Ki = (ci - δ(ε, ci), ci + δ(ε, ci)), i = 1, 2, ..., m を選んで I ⊂∪i=1m Ki とすることが出来る。 ここで δ = min(δ(ε, c1), ..., δ(ε, cm)) とすると, 有限個の正の数の最小値だから, 正の数であり, ε のみに依存する。
さて区間 K(c) と δ の作り方から, |x1 - x2| < δ を満たす二点 x1, x2 ∈ I は同一の Ki に属するか, 或いは x1 ∈ Ki, x2 ∈ Kj, Ki∩Kj≠Æ (Æ は空集合) を満たす (そうでないと |x1 - x2| < δ を満たせない)。 同一の Ki に属する場合には
|f(x1) - f(x2)| = |f(x1) - f(ci)
+ f(ci) - f(x2)|
≦ |f(x1) - f(ci)| + |f(ci) - f(x2)|
< ε/4 + ε/4 = ε/2 < ε.
そうでない場合には c ∈ Ki∩Kj とすると
|f(x1) - f(x2)| = |f(x1) - f(ci)
+ f(ci) - f(c) + f(c) - f(cj) + f(cj) - f(x2)|
≦ |f(x1) - f(ci)| + |f(ci) - f(c)| + |f(c) -
f(cj)| + |f(cj) - f(x2)| < ε/4 + ε/4 + ε/4 +
ε/4 = ε.□