普通の高校の教科書には, 数列の極限についてこんなことが書いてある。
無限数列 {an} に於いて, n が限りなく大きくなると, an の値が一定の値 α に限りなく近付くとき, 数列 {an} は α に収束する converge (或いは 収斂する) といい, 又は数列 {an} の極限値 limit value は α であるといい,
或いは,
n→∞ の時, an→α,
an→α (as n→∞),
,
,と書く。 この site ではあまり画像を使いたくないため,
limn→∞ an = α
のように書いてあることが多い。
さて, いつも問題になるのは, 斜体で書いた 「限りなく大きくなる」, 「限りなく近付く」 というのはどういう意味なのか ? ということである。 計算上は:
数列 {an} の一般項 an を表す式に, 直接 --- 或いはある程度の technique を要することもあるが --- n = ∞ を代入したときに, その 「標準部分」 が (±∞ を含まない標準) 実数 α (即ち超実数としては α±0) になるとき
が, 「限りなく大きくなる」, 「限りなく近付く」 という意味になる。 しかし勿論これでは 「近付く」 という意味ははっきりしない。
暫く難しい話を書く。 (飛ばしたければここ)
Archimedes (アルキメデス) は a > 0 とすると ∀n∈N(0 ≦ ε < a/n ⇒ ε = 0) ということを主張した。 これは Archimedes の公準と呼ばれている。 もしもこうでないとすると ∀n∈N(n ≦ a/ε) となって, 自然数が有限になってしまう。
現在の標準解析学では, これをお手本にして極限を次のように定義している。
∀ε > 0∃N∈N(n > N ⇒ |an - α| < ε).
意味は, 「任意の正の数 ε に対し, ある自然数 N が決められて, N よりも大きい全ての番号 n について |an - α| < ε, つまり, an と極限値 α との間が, 最初に決められた誤差 ε よりも小さくできる」 ということである。 これが悪名高き ε - δ 論法 (或いはこの場合は ε- N 論法ともいうらしいが) である。 私はこれが分かるのに三年くらいを要したので, 皆さんがすぐ分からなくてもがっかりしなくて良い (笑)。
つまり n が ∞ に 「近付いていく」 時に, |an - α| < ε 即ち -ε < an - α < ε, 即ち α - ε < an < α + ε, 即ち, an が α のすぐそば (ε 近傍) に凝集しているということである。
もう少し解説すると, こういうことである:
非常に疑い深い人がいたとして, an が α に限りなく近付くという主張に疑いを持ったとしよう。 もしも近付かないとすれば, an と α の差が, ある一定数よりは小さくならないこと (つまり ∃ε >0∃N∈N(n > N ⇒ |an - α| ≧ ε) ということ) を示さなければならない。 つまり, 彼はこういうことを言ってくるはずだ。 「そんなことはないだろう, どんなに頑張ったって, 誤差 1/10000 以下には出来ないに違いない」。 これに対して, あなたは一寸計算して (例えば) 「ほら, 100 万番以降では 1/10000 以下になっていますよ」 ということを言ってやればいい。 更に彼が 「1/10000 以下には出来たかもしれないが, 1/108 以下には出来ないに違いない」 と言ってきたら, もうちょっと計算して (例えば) 「ほら 1 億番以降では 1/108 以下になっていますよ」 といってやればいい, 更に... というわけ。
さて, この 「ε - δ 論法」 による定義が, さっきの Archimedes の公準とどういう関係にあるかというと, 特に ν を自然数として ε = 1/ν とすると, 定義は
∀ν, ∃N∈N(n > N ⇒ |an - α| < 1/ν)
だが, 極限にいくと Archimedes の公準から
|limn→∞an - α| < 1/ν ⇒ |limn→∞an - α| = 0
となるからである。
(1) limn→∞ (1/n) = 1/∞ = +0 ≡ 0 (mod ±0).
これを limn→∞ (1/n) = 0 と書く (超実数を導入した部分の, 途中経過を書かない)。 又は 1/n → 0 as n → ∞ 等。
1 > 1/2 > 1/3 > 1/4 > 1/5 > …… > 1/n > …… > 0
というのが 「0 に近付く」 という雰囲気である。
(2) limn→∞ (1 - 1/(2n)) = 1 - 1/(2×∞) = 1 - 1/∞ = 1 - 0 ≡ 0 (mod ±0).
答案では limn→∞ (1 - 1/(2n)) = 1 - 0 = 0. 又は 1 - 1/(2n) → 1 - 0 = 0 as n → ∞ 等。
(3) (-1)n/n.
(-1)n はとにかく +1 か -1 に決まっている。 どっちにしても ±1/∞ = ±0 ≡ 0 (mod ±0) だから, limn→∞ ((-1)n/n) = 0.
(4) c を (普通の) 実数とすると
limn→∞ c = c (代入するところがないから).
n が限りなく大きくなるとき, an の値が限りなく大きくなるとき, an は正の無限大に発散する diverge といい, an < 0 で |an| の値が限りなく大きくなるとき, an は負の無限大に発散するという。 このとき ±∞ は {an} の極限と呼ばれる (極限値ではない)。 ここで 「限りなく大きくなる」 といい, 「±∞ に近付く」 と言わなかったのは伝統に従ったまでで, その方が分かり易ければそれでも良い。 因みに L. Schwartz は Théorie des Distributions 3/e, Chapter 3, §1 で 「+∞ に収束する」 という表現をしているので, 定発散の時, 「発散する」 というのも単に伝統に従ったまでとも言える。
超準解析的には, an の式に n = ∞ を代入したときに +∞, -∞ の値になることが定発散である。
ε - δ 論法で述べると次の通り。 an が正の無限大に定発散するとは ∀R >0∃N∈N(n > N ⇒ an > R). つまり任意の正の数 R に関し, ある番号以上, an > R と出来る。
記号では limn→∞an = +∞, limn→∞an = -∞ などと書く。
簡単な例)
limn→∞ n = ∞, limn→∞ n2
= ∞,
limn→∞ (-n) = -∞, limn→∞ (-2n) = -∞.
収束もしないし定発散 (即ち正又は負の無限大に発散) しもしない数列は振動する oscillate 又は (不定) 発散するという。 この場合極限は存在しない。
簡単な例)
(1) {(-1)n}, これは -1, 1, -1, 1, -1, ... のようになっていて, 「最後」 が +1 か -1 か分からない。 このような場合, , 等と書いたりする。 lim inf を下極限 inferior limit, lim sup を上極限 superior limit という。
(2) {(-2)n}, これは -2, 4, -8, 16, -32, ...... の様になっていて, 絶対値は段々大きくなっていくが, +, - は交互に現れるので, 定まらない。 この場合 lim infn→∞ (-2)n = -∞, lim supn→∞ (-2)n = +∞ である。
(3) {sin n} これはもう全然無茶苦茶で傾向がない。 しかし -1 ≦ sin n ≦ 1 であり, π が無理数であることから im infn→∞ sin n = -1, lim supn→∞ sin n = 1 である。
数列の極限
収束する …………………………………………… 極限値が存在する
発散する
定発散する (正の無限大, 負の無限大) …… 極限が存在する
振動する (不定発散する)
これから使う定理を二つ掲げるが, 最初は証明は読まなくても良い。 証明は ε - δ 論法を用いて行われる。
定理
limn→∞ an = α ⇒ (∃M (|an| < M ) & |α| ≦ M).
| α| ≦ M に等号が入っているのは誤りではない。 例えば, an = 1 - 1/n < 1 であるが, limn→∞ an = limn→∞ (1 - 1/n) ≦ 1 であるから。 勿論 |an| < M の方に等号を入れても良い。
特に
limn→∞ an = α, limn→∞ bn = β, an < bn ⇒ α ≦ β.
勿論 an ≦ bn としても良い。
定理
数列 {an}, {bn} の両方ともが収束するとき, c を定数として
(1) limn→∞ can = c・limn→∞ an.
(2) limn→∞ (an ± bn) = limn→∞ an ± limn→∞ bn, resp.
(3) limn→∞ (an・bn) = (limn→∞ an)・(limn→∞ bn).
(4) 更に ∀n(bn ≠ 0) & limn→∞ bn ≠ 0 の時
最後の (4) では実は極限を考えているのだから, ∀n(bn ≠ 0) という仮定は過大で, ∃N∈N(n > N ⇒ bn ≠ 0) で充分なのだった。
証明はここ。
例はこちら。