先ず, OA と OB が同じ長さであるとき, 点 C を OC = OA + OB で決まる点とすると, 四辺形 OACB が菱形である為, OC が ∠ABC の二等分線であることに注意する。
△ABC に於て, 三つの内角の二等分線は唯一点で交わり, その点をこの三角形の内心 incentre, nner centre, internal centre, center of incercle という。 今度はこの内心の位置ベクトルを求めてみよう。
内心は三頂角の二等分線の交点であるから内心を I
と置くと, 上に注意したことから,
AI = s(AB / c + AC / b) = (s/c)AB + (s/b)AC
と書ける。同様に
BI = (t/c)BA +(t/a)BC = -(t/c)AB + (t/a)(AC -
AB)
= -((a + c) / (ac))t AB + (t/a)AC
である。あとの方の式から
AI = AB + BI = [1 - ((a + c) / (ac))t]
AB + (t/a)AC.
最初の式と最後の式を比較して (AB と AC
が一次独立だから)
s/c = 1 - ((a + c) / (ac))t,
s/b = t/a.
この第二式から t = as/b なので, これを第一式に代入して
s/c = 1 - ((a + c) / (ac))as/b = 1 - ((a + c) / (bc))s
[(a + b + c)/(bc)] s = 1
∴s = bc / (a + b + c).
これを最初の式に代入すると
AI = (b/(a + b + c))AB + (c/(a + b + c))AC.
I(i) として位置ベクトルに直すと
i - a = (b/(a + b + c))(b - a) + (c/(a + b + c))(c
- a).
∴i = (1/(a + b + c))[bb - ba + cc - ca + (a + b +
c)a]
= (1/(a + b + c))[aa + bb + cc].
これから i - c = (a/(a + b + c)(a - c) + (b/(a + b + c)(b - c) であることが確認できて, 直線 CI が ∠ACB を二等分していることが確認できる。
ところで, 内心を中心として, 三辺に接する円が描ける。 この円を内接円 incircle, inscribed circle というが, これの半径を通常 r と書く。
図を見ると分かるが, △ABC = △AIB + △BIC + △CIA = cr/2 + ar/2 + br/2 = (a + b + c)r/2 だから, S = △ABC とすると
r = 2S/(a + b + c)
であることが分かる。 以前はこういうことを中学でやったのだが, 最近は高校生でも知らない人が増えてきたので一寸書いておく。
内心と同様に, 一頂角の二等分線と, 残りの二つの外角の二等分線も一点で交わるその点を傍心 excentre という。 傍心を中心として, 三辺又はその延長に接する円が描ける。 この円を傍接円 escribed circle という (図は ∠A 内の傍接円と呼ばれる)。
図を見ると分かると思うが, ∠A 内の傍接円半径を rA と書くと, 上記と同様に
rA = 2S/(-a + b + c)
が成り立つ。
さて ∠A 内の傍心を E(e) として e を求めてみよう。
上記と同様に
AE = s(AB / c + AC / b) = (s/c)AB + (s/b)AC
と書ける。 同様に (向きを考えて)
BE = (t/c)AB +(t/a)BC = (t/c)AB + (t/a)(AC -
AB) = ((a - c) / (ac))t AB + (t/a)AC
である。あとの方の式から
AE = AB + BE = [1 + ((a - c) / (ac))t]
AB + (t/a)AC.
最初の式と最後の式を比較して (AB と AC
が一次独立だから)
s/c = 1 + ((a - c) / (ac))t,
s/b = t/a.
この第二式から t = as/b なので, これを第一式に代入して
s/c = 1 + ((a - c) / (ac))as/b = 1 + ((a - c) / (bc))s
[(-a + b + c)/(bc)] s = 1
三角不等式から b + c > a だから -a + b + c > 0
∴s = bc / (-a + b + c).
これを最初の式に代入すると
AE = (b/(-a + b + c))AB + (c/(-a + b + c))AC.
位置ベクトルに直すと
e - a = (b/(-a + b + c))(b - a) + (c/(-a + b + c))(c
- a).
∴e = (1/(-a + b + c))[bb - ba + cc - ca + (-a + b + c)a]
= (1/(-a + b + c))[-aa + bb + cc].
この形を見れば, ∠B 内或いは ∠C 内の傍心の位置ベクトルも容易に想像できよう。
ここまでで出てきた重心, 外心, 垂心, 内心, 傍心を三角形の五心という。