広義積分 1 (有限区間)


「広義積分」 というのは非常に良い訳である。 英語では improper integral という。 従って 「異常積分」 と訳す人もいるが, 別に 「異常」 という感じは受けない。 単語 improper とは "proper (正しい, 厳密な) ではない" という意味だからである (一寸前に流行った 「不適切な」 という意味もあるが)。 「仮性積分」 という訳を用いた人もいるが, 普及していない (仮分数を improper fraction というのでこの訳はそれほど悪くはないはずである)。


今までは有限区間での有界な函数の積分についてのみ定義していた。 これを最初に有限区間で被有界な函数の場合に拡張しよう。

区間 (a, b] で定義された函数 f(x) が a < t < b であるような任意の t に対し [t, b] で, これまでの意味で可積であり, 有限な極限値 limt→a + 0tb f(x) dx を持つとき, これを [a, b] (或いは (a, b]) での f(x) の積分とする。 勿論 [a, b] で今までの意味で可積な函数に関してはこの極限値と∫ab f(x) dx は一致する。 従ってこれを唯単に ∫ab f(x) dx と書くことにする。

同様に [a, b) で定義された函数 f(x) についても同様に a < t < b であるような任意の t に対し [a, t] でこれまでの意味で可積であり, 有限な極限値 limt→b - 0at f(x) dx を持つとき, これを [a, b] (或いは [a, b)) での f(x) の積分とする。

両端点を含まない区間 (a, b) で定義された函数 f(x) については, 適当な中間点 a < c < b に関して (a, c], [c, b) に分割し, 各々の区間で上記のように考えて ∫ab f(x) dx = limt→a + 0tc f(x) dx + limt→b - 0ct f(x) dx とする。 これを [a, b] 上 (或いは (a, b) 上) の f(x) の積分とする。 (普通これは 「二重極限」 というものを用いて lims→a+0, t→b-0st f(x) dx と書かれるものであるが, この site では今まで重極限を扱っていないので, このような書き方をした)

更に一般に, 区間 [a, b] 上で, 区間 I_i = [ai, bi], a = a0 < b0 ≦ a1 < b1 ≦ …… ≦ an < b n = b (n = ∞ も許容する) が与えられており, 各 I_i では f(x) が上記の意味で可積とする。 この時 Σi=0nI_i f(x) dx が絶対収束するならば, この和を [a, b] 上の広義積分といい, ∫ab f(x) dx と書く。 普通特に区別する必要のない限り 「広義」 を省略して, 唯単に 「積分」 という。

本当は上記のように区間の端点 ai, bi を整列させられるかどうかは分からない。 只, 正確に述べるためには, I_i が 「高々可算個」 という表現をしなければならず, その説明をちゃんとはしていないので, ここでは上記のような表現をせざるを得なかった。


例:

(1) ∫01 dx/√x = [2√x]01 = 2.

(2) 前に述べたように   なのだから ∫01 dx/√(1 - x2) = [Sin-1 x]01 = π/2 - 0 = π/2.

これらの例に見られるように, 広義積分とはいえ, 余り意識しないでも普通に積分できる場合も多い。 そうでない例は下記。


区間 [a, b] で f(x) が可積であるとき, その近傍で f(x) が有界ではないような区間の点をこの積分の特異点 singular point という。 特異点を持ってはいるが, 可積であるような場合, 特異点の集合は任意の ε > 0 に対し, 長さの総和が ε を超えないような有限個の区間で覆うことが出来る。 このような性質を持つ集合は Peano-Jordan 測度が 0 であるといわれる。

定理

函数 f(x) が区間 [a, b] で絶対可積であるならば, 各項が正であるような任意の数列 {εn} (εn→0, as n→0) に対し, f(x) の全ての特異点を, 長さの総和が εn を超えない有限個の互いに交わらない区間 {I_(n,k)} で覆うときに
limn→∞ΣkI_(n,k) f(x) dx = 0.

例の前の記号 {I_i} を用いると, 任意の自然数 N に対し

lim infn→∞ (∫ab |f(x)|dx - ΣkI_(n,k) |f(x)| dx) ≧ Σi=1NI_i |f(x)| dx で, 明らかに右辺は N →∞ の時に ∫ab |f(x)|dx に収束するのだから, f の代わりに |f| に関して定理の極限の式が成立する。 が, 絶対可積なのだから f に関しても成立する。□

次の定理が良く引用される。

定理

函数 f(x) が (a, b] で連続で,
(1) k < 1 に対し f(x) = O(1/(x - a)k) as x→a + 0 ならば f(x) は [a, b] で可積 (絶対収束)。
(2) k ≧ 1 に対し lim infx→a+0 (x - a)k f(x) > 0 ならば f(x) は [a, b] では可積ではない。

証明:

(1) k < 1 に対し f(x) = O(1/(x - a)k) as x→a + 0 とする。 この時ある M > 0 に対して (a, b] で |f(x)| ≦ M/(x - a)k であるから, 0 < s < t < b - a とすると
|∫a+sa+t f(x)dx| ≦ ∫a+sa+t |f(x)|dx ≦ M∫a+sa+t dx/(x - a)k = (M/(1 - k))[(x - a)1-k]a+sa+t = M(t1-k - s1-k)/(1 - k).
 ここで 1 - k > 0 であるから, lims,t→0a+sa+t f(x)dx = 0 である。 Cauchy の収束判定法により ∫a+0b f(x) dx が存在する。

(2) 仮定によって, k ≧ 1 に対し, δ > 0 と M > 0 が存在して f(x) ≧ M/(x - a)k となる。 (1) と同様に 0 < s < t < δ ≦ b - a をとってやると ∫a+sa+t f(x)dx ≧ M∫a+sa+t dx/(x - a)k であるが, この右辺は k = 1 の時 M log(t/s), k > 1 の時は M(t1-k - s1-k)/(1 - k) である。 これらの何れも, h > 1 として t = hs とすると k = 1 ならば M log h > 0, k > 1 とすると Ms1-k(1 - h1-k)/(1 - k)→∞ (as s→+0) であるから, Cauchy の収束判定法により可積ではない。□

上記の定理では a が積分区間の下端であったが, 上端 b の時は x→b - 0 として, 又, 積分区間の中間点 c で問題になるとき ([a, c), (c, b] では連続であるとき) は x→c として同様に成り立つ。


(1) [Beta 函数 (beta function)]

p > 0, q > 0 とすると

B(p, q) = ∫01 xp-1(1 - x)q-1 dx

は絶対収束をする。 これを p > 0, q > 0 の函数と見て, Euler の beta 函数という。
 これは二項係数と次のような関係にある。 即ち 0 < r < n が整数の時

nCr = n/((n - r)rB(n - r, r)).

このことは, 後で出て来る gamma 函数 Γ(s) との関係から分かることであるが, ずっとあとで扱う予定である。 又この等式から beta 函数は, 二項係数の 「連続化」 であることが分かる。

(2) ∫0π/2 log(sin x) dx = -(π/2)log 2. [L. Euler]

被積分函数は x→0 の時 -∞ になるけれども,
(xα)log sin x = (xα)log x + (xα)log((sin x)/x) → 0 (α > 0)
だから, 積分は収束する。 この積分を I と置くと x を π - x に変換し, 或いは又 (π/2) - x に変換することによって
I = ∫π/2π log sin x dx = ∫0π/2 log cos x dx.
従って
2I = ∫0π log sin x dx.
ここで x = 2φ とすると
I = ∫0π/2 log sin 2φ dφ = ∫0π/2 log (2 sin φ cos φ) dφ
= ∫0π/2 log 2 dφ + ∫0π/2 log sin φ dφ + ∫0π/2 cos φ dφ
= (π/2)log 2 + 2I.
だから。
 (これは Lars V. Ahlfors Complex Analysis 5.3 Evaluation of Definite Integrals の
5 として Cauchy の積分定理を用いて ∫0π log sin x dx = -π log 2 と求めているのと同じ。)

(3) ∫0π x log sin x dx = -(π2/2) log 2

 x → 0 のところと x → π のところは
上記の Euler の結果と同様に積分が収束することが分かる。 そこで
0π x log sin x dx
= ∫0π/2 x log sin x dx + ∫π/2π x log sin x dx
後半で t = π - x と変数変換すると
0π x log sin x dx
= ∫0π/2 x log sin x dx + ∫π/20 (π - t)log sin(π - t) (-dt)
= ∫0π/2 x log sin x dx + ∫0π/2 (π - t)log sin t dt
= ∫0π/2 x log sin x dx + π∫0π/2 log sin t dt - ∫0π/2 t log sin t dt
= π∫0π/2 log sin t dt
= -(π2/2) log 2.


さて, 函数 f(x) は区間 [a, b] で, 只一点 c ∈ (a, b) でだけ連続でない (非有界) としよう。 この時, [a, b] 上での f(x) の広義積分の定義は

lims→+0ac-s f(x) dx + limt→+0c+tb f(x) dx

が収束することであった。 勿論ここで s と t は無関係に各々 c に近付いていかなければならない。 しかし場合によっては, s = t → +0 となるときの極限が問題になることがある。 これが有限な値になるとき, それを Cauchy の主値積分 principal value of the integral といい

(P)∫ab f(x) dx = limt→+0(∫ac-t f(x) dx + ∫c+tb f(x) dx)

と書く。 ((P) の代わりに p.v. と書くこともある, フランス流に v.p. と書くこともある。)

例えば (P)∫-11 dx/x = 0.


広義積分についても, 殆どの性質は普通の積分と変わらない。 しかし, 一部は成り立たないものもある。 例えば [0, 1] で 1/√x は可積である。 しかし (1/√x)(1/√x) = 1/x は可積ではない。 例は難しいが, f(x) が可積だからといって |f(x)| が可積とは結論されない。しかし絶対可積な函数に関して  |∫ab f(x) dx| ≦ ∫ab |f(x)| dx は成立する。

以下証明を省略して事実のみを掲げる:

[a, b] で可積な f(x) の不定積分 F(x) はそこで連続。

f(x) が有限個の第一種の不連続点 c_i ∈ (a, b) を除けば [a, b] で微分可能, f'(x) が [a, b] で可積で c_i の近傍を除いて有界とすれば ∫ab f(x) dx = [f(x)]ab + Σi [f(x)]c_i+0c_i-0.

[置換積分] (a, b) で g(t) が微分可能な狭義の増加函数, g'(t) がそこで可積な有界函数, f(x) は (a, b) = (g(α+0), g(β-0)) で連続とするとき ∫ab f(x) dx と ∫αβ f(g(t)) g'(t) dt の何れか一方が存在すれば他方が存在して等しい。

[部分積分] [a, b] から有限個の点 c_i ∈ (a, b) を除けば f(x), g(x) が微分可能, f'(x), g'(x) が可積, c_i の近傍を除いて有界, f(a+0), g(a+0), f(b-0), g(b-0), f(c_i±0), g(c_i±0) の全てが存在し, [a, b] で f'(x)g(x), f(x)g'(x) の一方が可積ならば他方も可積で
ab f'(x)g(x) dx + ∫ab f(x)g'(x) dx = [f(x)g(x)]a+0b-0 + Σi[f(x)g(x)]c_i+0c_i-0.


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