平均値の定理の式で f(b) = f(a) + f'(c)(b - a) となることを思い出していただく。 この式で f'(c) を f'(a) に置き換えると b - a が十分小さければ f(b) ≒ f(a) + f'(a)(b - a) となることは, 表現は違うが, 前に述べたことと同じである。 これに hint を得て
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + K(b - a)2
と置いてみて, K を求めよう。 そのために f(b) を移項して, a だったところを皆 x に置き換えた式を F(x) と新たに置こう。 即ち
F(x) = -f(b) + f(x) + f'(x)(b - x) + K(b - x)2.
F(b) = 0 はすぐ分かる。置き方から F(a) = 0
でもある。そこで, Lagrange の平均値の定理から F'(c) = f'(c) - f'(c)
+f''(c)(b - c)- 2K(b - c) = 0 となる a < c < b が存在するが,
この式から K = f''(c)/2
であることが分かる。もう一度書き直すと:
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + (f''(c)/2)(b - a)2.
更に気を良くして
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + (f''(a)/2)(b - a)2
+ K(b - a)3 と置いてみて, K を求めてみよう。
先ほどと同様に F(x) = -f(b) + f(x) + f'(x)(b - x) + (f''(x)/2)(b - x)2
+ K(b - x)3 と置くと, F(a) = F(b) = 0 だから, F'(c) = f'(c) +
f''(c)(b - c) - f'(c) + (f'''(c)/2)(b - c)2
- f''(c)(b - c) + 3K(b - x)2 = 0 となる a < c < b
が存在するということである。これから K = f'''(c)/(2×3)
であることが分かる。もう一度書き直すと
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + (f''(a)/2)(b - a)2
+ (f'''(c)/(2×3))(b - a)3.
これから一般に, 次の定理を得る。
定理 [Taylor]
函数 f(x) が閉区間 a ≦ x ≦ b でその第 n - 1
階までの導関数と共に連続, 開区間 a < x < b で第 n
階導関数を持つならば
f(b) = Σk = 0n - 1 (f(k)(a)/k!)(b - a)k + Rn.
ここに Rn は剰余項と呼ばれる項で
Rn = (f(n)(c)/n!)(b - a)n. [Lagrange]
Rn = (1 - θ)n-1(f(n)(c)/(n - 1)!)(b - a)n, c = a + θ(b - a), 0 < θ < 1. [Cauchy]
Rn = (1 - θ)n-p(f(n)(c)/((n - 1)!p))(b
- a)n,
c = a + θ(b - a), 0 < θ < 1, 0 ≦ p ≦ n- 1 [Roche-Schlömilch
(ロッシュ-シュレーミルヒ)]
Roche-Schlömilch の剰余項が一番一般的で, p = n とすると Lagrange の剰余項が, p = 1 とすると Cauchy の剰余項を得る。
証明は, Roche-Schlömilch の剰余項でやっておく。
F(x) = Σk = 0n - 1 (f(k)(x)/k!)(b - x)k + R(b - x)p/(b - a)p
と置こう。 R が F(a) = f(a) となるように定められているとすると, 明らかに F(a) = F(b) = f(a) だから, Rolle の定理から F'(c) = 0 となる a < c < b が存在する。
F'(x) = f'(x) + Σk = 1n - 1 [(f(k+1)(x)/k!)(b -
x)k - (f(k)(x)/(k-1)!)(b - x)k-1]
- Rp(b - x)p/(b - a)p
= (f(n)(x)/(k-1)!)(b - x)n-1
- Rp(b - x)p-1/(b - a)p
F'(c) = (f(n)(c)/(n-1)!)(b - c)n-1 - Rp(b - c)p-1/(b - a)p = 0.
故に R の定め方は次のようでなければならない
R = (f(n)(c)/(n-1)!)(b - c)n-1・(b
- a)p/(p(b - c)p-1)
= (f(n)(c)/(n-1)!p)(b - c)n-p(b -
a)p
= (f(n)(c)/((n - 1)!p))(b - a - θ(b - a))n-p(b
- a)p
= (f(n)(c)/((n - 1)!p))(b - a)n-p(1 - θ)n-p(b
- a)p
= (1 - θ)n-p(f(n)(c)/((n - 1)!p))(b
- a)n.■
この式で, 誤差がちゃんと評価できる近似式を作ることができる。
しかし, 誤差は 0 であると嬉しい。 実は次の定理が成り立つ。
定理
r > 0 に関し, もしも |x - a| < r なる限りにおいて (つまり a
- r < x < a + r ならば常に) f(x) が何回も微分でき, a -
r < c < a + r なる c に関して一様に
limn → ∞
(f(n)(c)/n!)(x
- a)n = 0
であるとすれば, f(x) は次の冪級数に展開される:
f(x) = Σn = 0∞ (f(n)(a)/n!)(x - a)n
.
この最後の式を函数 f(x) の x = a の周りの Taylor 展開 (テイラー展開) という。特に a = 0 のときは Maclaurin 展開 (マクローリン展開) ともいう。両方あわせて Taylor-Maclaurin 展開ともいう。 各々展開された式を例えば Taylor 級数等という。
又, 定理の中に現れる r をこの展開の収束半径 という。
或 x = a の周りで Taylor 展開可能な函数を x = a に於いて解析的 であるといい, 収束半径が ∞ である函数を解析函数 という。
幾つかの有名な例をあげる。 収束半径の議論は, 現在までのここの site での勉強だけでは足りないので, 参考までにあげておく。 そのうちここもちゃんとやるであろう。 尚, 以下の議論では高階導函数のところも参照のこと。
[1] f(x) = ex.
f(n)(x) = ex であったから, f(n)(0) = 1. 従って
ex = Σn = 0∞ xn/n!, 収束半径は ∞.
前に参考までにあげた e の近似値はこれを用いて x = 1 として計算したものである。
[2] f(x) = sin x.
f(n)(x) = sin(x + πn/2) であったから, f(2n)(0) = 0, f(2n-1)(0) = (-1)n-1 である。 従って
sin x = Σn = 0∞ (-1)nx2n+1/(2n + 1)!, 収束半径はやはり ∞.
sin x が奇函数だから, x の奇数次の所しか残っていないのである。
[3] f(x) = cos x.
同様にしてcos x = Σn = 0∞ (-1)nx2n/(2n)!, 収束半径はやはり ∞.
これも偶函数だから, x の偶数次の所しか生き残らない。 尚, sin x の Taylor 級数を微分すると, cos x の Taylor 級数を得ることが出来, cos x の Taylor 級数を微分すると, sin x の Taylor 級数の符号を全部変えたものを得る。
又, 形式的に i2 = -1 となる数を考え, これを eix
を Taylor 級数で計算してみると
eix = cos x + i sin x を得る。 これを Euler の公式
(オイラーの公式) などという。 更に
cos x = (eix + e-ix)/2
sin x = (eix - e-ix)/(2i)
も得られる。。
又更に一般に z = x + iy (x, y は実数) のとき
ez = ex + iy = exeiy = ex(cos
y +
i sin y)
なることも分かる。
[4] f(x) = (1 + x)α. α は任意の実数。
n = 1 から順番にやってみると
f(n)(x) = α(α - 1)(α - 2)…(α - n + 1)(1 + x)α - n
であることが分かる。 通常は と書いて, これを一般の二項係数というのだが, 書きづらいので αCn と書いてしまうことにすると,
f(n)(x) = αCnn! (1 + x)α - n
従って
(1 + x)α = Σn = 0∞ αCn xn, 収束半径は |x| < 1 (但し x = 1 は例外的に収束する).
[5] f(x) = log (1 + x).
f(n) = (-1)n-1(n-1)!(1 + x)-n
であるから
log (1 + x) = Σn = 1∞ (-1)n+1xn/n, 収束半径は |x| < 1 (これも x = 1 は例外的に収束する)。
尚, これを微分するとちゃんと 1/(1 + x) の Taylor 級数になっている。
[6] f(x) = log (1 - x).
同様にして log (1 - x) = -Σn = 1∞ xn/n, 収束半径は |x| < 1 (これは x = -1 が例外的な収束である)。
上記の [5] と [6] とから, log ((1+x)/(1-x)) = log (1+x) - log (1-x) であることによって という式を得る。 当然これの収束半径も |x| < 1 であるが, こちらの式は, この範囲でもちゃんと y = (1 + x)/(1 - x) が y > 0 の実数を全て実現できるから, 有用である。
一寸話がそれるが, ここでよく言及される定理を一つ。
Lagrange の平均値の定理において f(x) = f(a) + f'(a + θ(x - a))(x - a) であるが, ここにおいて, f(x) が二階までは微分可能ならば limx→aθ = 1/2.
実際, f(x) が二次函数の時には, lim をとらなくってもいつでも 1/2 である。 この定理は, 極限に於いては全ての函数は二次函数的であることを述べているのだが, よく考えれば, Taylor の定理が成り立つ函数ならば, 十分近くでは三次以降の項は無視できるのだから, 当然である。
さて, 同じ f(x) に関し, Taylor の定理から
f(x) = f(a) + f'(a)(x - a) + (f''(a + θ1(x - a))/2)(x - a)2 … (1)
である。 さて f'(a + θ(x - a)) に関して, これを x の函数と考えて, 再び Lagrange の平均値の定理を適用すると
f'(a + θ(x - a)) = f'(a) + f''(a + θ(c - a))(θ'(x - a) + θ)(x - a)
となるが, これを最初の式に代入すると
f(x) = f(a) + [f'(a) + f''(a + θ(c - a))( θ'(x - a) + θ)(x - a)](x - a)
= f(a) + f'(a)(x - a) + f''(a + θ(c - a))θ(x - a)2 + f''(a + θ(c - a))θ'(x -
a)3
これと (1) とから
f''(a + θ(c - a))θ + f''(a + θ(c - a)) θ'(x - a)= f''(a + θ1(x - a))/2.
従って θ = (f''(a + θ1(x - a)) - f''(a + θ(c - a)) θ'(x - a))/(2f''(a + θ(c - a)))→ 1/2 as x → a.