次の二つは既に述べてある:
[a, b] で f(x), g(x) が共に可積で, [a, b] 上常に f(x) ≧ g(x) であるならば
∫ab f(x) dx ≧ ∫ab g(x) dx.
定理:
閉区間 I で f(x) が可積 ⇒ |f(x)| も可積 且つ |∫ab f(x) dx| ≦ ∫ab |f(x)| dx.
n/Σi=1nti ≦ (Πi=1n ti)1/n = exp((1/n)Σi=1nlog ti) ≦ (1/n)Σi=1nti
を [a, b] で, その下限が正であるような有界可積な函数 f(x) に対して ti = f(a + i(b - a)/n) と置いて Riemann 和から極限に持って行くと
(b - a)/∫ab dx/f(x) ≦ exp(∫ab log(f(x))dx/(b - a)) ≦ ∫ab f(x)dx/(b - a).
以下, 有名な (名前のついた) 不等式を幾つか掲げる。
注: 次に掲げる不等式のうち幾つかは複素函数版が存在するが, ここに掲げてあるものは全て実函数版である。
[Cauchy-Schwarz-Буняковский (ブニャコフスキ) の不等式]
積分区間上平方可積な f(x), g(x) に対し
(∫ab f(x)g(x) dx)2 ≦ ∫ab f(x)2dx∫ab g(x)2dx,
等号成立は, λ, μ が存在して, f(x), g(x) が共に有限な値を採るような x ∈ [a, b] に対して λf(x) = μg(x) なること。
注: 正確には Cauchy の不等式と呼ばれるものはこれの数列版, 即ち (Σk akbk)2 ≦ Σk ak2 Σk bk2 を指す。 積分不等式に関しては Schwarz の不等式, 又は Буняковский の不等式と言うべきであるが, 通常 "Cauchy-Schwarz の不等式" として引用されることが多い。 尚, Буняковский は岩波数学辞典に拠れば Bunyakovskiĭ と綴れば良いようである。
証明: λ, μ を任意な実数とすると (λf(x) - μg(x))2 = λ2f(x)2 - 2λμf(x)g(x) + μ2g(x)2 ≧ 0. ここで [a, b] 上積分すると λ2∫ab f(x)2 dx - 2λμ∫ab f(x)g(x) dx + μ2∫ab g(x)2 dx ≧ 0. 従って, この左辺で λ, μ に関する判別式を D とすると D/4 = (∫ab f(x)g(x) dx)2 - ∫ab f(x)2 dx∫ab g(x)2 dx ≦ 0. 等号成立は明らかであろう□
問題:
上記と同じ f(x), g(x) と, 積分区間上積分可能で m(x) ≧ 0 であるような函数 m(x) に対し, 次の不等式が成立することを示せ。 又等号成立の条件は何か。
(∫ab f(x)g(x)m(x) dx)2 ≦ ∫ab f(x)2m(x)dx∫ab g(x)2m(x)dx.
[Hölder (ヘルダー) の (積分) 不等式]
p > 1, 1/p + 1/q = 1 (⇔ (p - 1)(q - 1) = 1), f(x) ≧ 0, g(x) ≧ 0 で, 式中に表れる積分は全て存在するとする。 この時
∫ab f(x)g(x) dx ≦ (∫ab f(x)pdx)1/p (∫ab g(x)qdx)1/q,
等号成立は, λ, μ が存在して殆ど至るところ λf(x)p = μg(x)q なること。
注: 一見して分かるように, これは上記の Cauchy-Schwarz-Буняковский の不等式の拡張であり, p = q = 2 なるときが Cauchy-Schwarz-Буняковский の不等式である。 又 Cauchy の不等式と同様, これの数列版が存在する。
証明: 函数 φ(t) = tp/p + 1/q - t と置く。 φ'(t) = tp-1 - 1, φ''(t) = (p - 1)tp-2. p > 1 であったから, φ''(t) > 0 (従って下に凸), φ'(1) = 0 だから t = 1 で最小値 φ(1) = 1/p + 1/q - 1 = 0 を取る。 従って, tp/p + 1/q - t ≧ 0 即ち tp/p + 1/q ≧ t である。 今ここに t = α/βq/p と置くと, αp/(pβq) + 1/q ≧ α/βq/p. 両辺を βq 倍すると, αp/p + βq/q ≧ αβ(q - q/p) = αβq(1 - 1/p) = = αβq・1/q = αβ (等号成立は α/βq/p = 1 即ち α = βq/p, 従って αp = βq).
さてここで, I = (∫ab f(x)pdx)1/p, J = (∫ab g(x)qdx)1/q と置こう。 f(x) ≧ 0, g(x) ≧ 0 だから I = 0 又は J = 0 は即ち f(x) = 0 又は g(x) = 0 を意味している (積分の性質の積分不等式の基礎定理の直下の定理を見よ)。 この時, Hölder の不等式は両辺とも 0 となるので証明すべきことは名にもない。 従って以下では I ≠ 0, J ≠ 0 とする。
α = f(x)/I, β = g(x)/J と置こう。 すると上述のように f(x)/I・g(x)/J ≦ f(x)p/(pIp) + g(x)q/(qIq). これを [a, b] 上積分すると (∫ab f(x)g(x) dx)/(IJ) ≦ (∫ab f(x)pdx)/(pIp) + (∫ab g(x)qdx)/(qIq) =1/p + 1/q = 1. つまり ∫ab f(x)g(x) dx ≦ IJ = (∫ab f(x)pdx)1/p (∫ab g(x)qdx)1/q.
等号成立は (f(x)/I)p = (g(x)/J)q. 即ち Jqf(x)p = Ipg(x)q. 即ち f(x)p(∫ab f(x)pdx)q/p = g(x)q(∫ab g(x)qdx)p/q. つまり λ = (∫ab f(x)pdx)q/p, μ = (∫ab g(x)qdx)p/q である。□
問題
(1) f(x) ≧ 0, g(x) ≧ 0 とは限らない場合について |∫ab f(x)g(x) dx| ≦ (∫ab |f(x)|pdx)1/p (∫ab |g(x)|qdx)1/q という形で証明せよ。
(2) f(x) ≧ 0, g(x) ≧ 0 の場合 p < 1 で, p ≠ 0 であるとき ∫ab f(x)g(x) dx ≧ (∫ab f(x)pdx)1/p (∫ab g(x)qdx)1/q が成立することを証明せよ。
[Minkowski (ミンコフスキ) の (積分) 不等式]
p ≧ 1, f(x) ≧ 0, g(x) ≧ 0 で, 式中に表れる積分は全て存在するとする。 この時
(∫ab (f(x) + g(x))p dx)1/p ≦ (∫ab f(x)pdx)1/p + (∫ab g(x)pdx)1/p.
等号成立は λf(x) = μg(x) なること。
注: この不等式にも数列版が存在する。
証明: p = 1 の時は唯単に線型性から等号が成り立つことを述べているに過ぎない。 そこで以下では p > 1 とする。
先ず ∫ab (f + g)p dx = ∫ab (f + g)p-1(f(x) + g(x)) dx = ∫ab (f + g)p-1f(x) dx + ∫ab (f + g)p-1g(x) dx. ここで 1/p + 1/q = 1 となる q を採り, 右辺の各項に上記の Hölder の不等式を適用すると
∫ab (f + g)p dx
≦ (∫ab (f + g)(p-1)q dx)1/q(∫ab
f(x)pdx)1/p + (∫ab (f + g) dx)1/q(∫ab g(x)pdx)1/p
= (∫ab (f + g)p dx)1-1/p((∫ab
f(x)pdx)1/p + (∫ab g(x)pdx)1/p).
((p-1)q = (p - 1)(q - 1) + p - 1 = 1 + p - 1 = p)
(∫ab (f(x) + g(x))p dx)1/p = 0 だと仮定すると, それは f(x) + g(x) = 0 を意味し, 積分区間上 f(x) ≧ 0, g(x) ≧ 0 であったので, これは f(x) = g(x) = 0 を意味する。 この時, Minkowski の不等式の両辺とも 0 となるので, 証明すべきことはなにもない。 従って, 上記の両辺を (∫ab (f + g)p dx)1-1/p で 割ると, 証明すべき不等式を得る。
等号成立は, λ0(f + g)p = λf(x)p = μg(x)p が成り立つこと, 即ち λf(x) = μg(x) である。□
問題
(1) f(x) ≧ 0, g(x) ≧ 0 とは限らない場合について (∫ab |f(x) + g(x)|p dx)1/p ≦ (∫ab |f(x)|pdx)1/p + (∫ab |g(x)|pdx)1/p という形で証明せよ。
(2) f(x) ≧ 0, g(x) ≧ 0 の場合 p < 1 で, p ≠ 0 であるとき (∫ab (f(x) + g(x))p dx)1/p ≧ (∫ab f(x)pdx)1/p + (∫ab g(x)pdx)1/p であることを証明せよ。
[Young の不等式]
f(x) が x ≧ 0 で連続な狭義の増加函数。 f(0) = 0, a ≧ 0, b ≧ 0 とするとき
∫0a f(x) dx + ∫0b f-1(y) dy ≧ ab.
等号成立条件は f(a) = b.
証明: (下の図を見れば明らかであろうが) f(x) と f-1(y) は対称だから, f(a) ≦ b として一般性を失わない。 この時 [f(a), b] 上 f-1(y) ≧ a だから
lhs = ∫0a f(x) dx + ∫0f(a) f-1(y)
dy + ∫f(a)b f-1(y) dy
= ∫0a f(x) dx + ∫0a x df(x) + ∫f(a)b
f-1(y) dy
≧ ∫0a f(x) dx + [xf(x)]0a - ∫0a
f(x) dx + ∫f(a)b a dy = af(a) + ab - af(a) = ab.
等号成立は明らかであろう□
Young の不等式において f(x) = xp-1, p > 1, 1/p + 1/q = 1 とすると, 上述の Hölder の不等式の証明中で用いた不等式
ap/p + bp/b ≧ ab
が証明される。