ここでは
[1] Cauchy-Schwarz の不等式
[2] Pappus の中線定理への補足
の二項目について扱う。
[1] Cauchy-Schwarz の不等式
他で扱う機会がなかったので, ここで扱う。
[定理]
(a・b)2 ≦ |a|2|b|2
等号成立は a || b.
証明: a 又は b が 0 の時は明らかに等号が成立するからそうでないとする。 内積の定義から a・b = |a||b|cos ∠(a, b) だから
(a・b)2 = |a|2|b|2cos2∠(a, b) ≦ |a|2|b|2. 等号成立は cos ∠(a, b) = ±1 即ち ∠(a, b) = nπ, n∈Z. 従って, a || b.□
これを成分で書くと (a1b1 + a2b2)2 ≦ (a12 + a22)(b12 + b22) であるので, 次のように証明することも出来る: 先程と同様に a 又は b が 0 の時は明らかに等号が成立するからそうでないとする。 明らかに (a1t - b1s)2 = a12t2 - 2a1b1ts + b12s2 ≧ 0. 同様にして a22t2 - 2a2b2ts + b22s2 ≧ 0. 辺々加えて (a12 + a22)t2 - 2(a1b1 + a2b2)ts + (b12 + b22)s2 ≧ 0. この式を t, s に関する絶対不等式と見ると, それが成立するための条件は 左辺 = 0 と置いたときの t, s に関する判別式 D に関して
D/4 = (a1b1 + a2b2)2 - (a12 + a22)(b12 + b22) ≦ 0
が成り立つことである。 等号成立は (a1t - b1s)2 = (a2t - b2s)2 = 0 が同時に成り立つことだから a || b.□
[2] Pappus の中線定理への補足
Pappus の中線定理について述べたときに, 我々は vectors の内積を用いてそれを証明したのだったが, 実は逆に Pappus の中線定理が成立するようなベクトル空間には内積を定義することが出来る。 これは多分に専門的であるので興味のない読者は飛ばしてしまって良いだろう。
そこで示したように |b - a|2 + |a + b|2 = 2(|a|2 + |b|2) である。言い換えると
2(|x|2 + |y|2) = |x + y|2 + |x - y|2 … (a)
である。 今,
(a, b) = (1/4)(|a + b|2 - |a - b|2)
とする。 もしも, 元々の空間に 「標準内積」 a・b が定まっていたとすると, 内積の性質から右辺 = (1/4)(|a|2 + 2a・b + |b|2 - |a|2 + 2a・b - |b|2) = a・b であるから, 完全に一致することが分かる。 我々は元々内積が定まっていないとして, 上記のように定義すると, (a, b) は内積の性質を満たすことを示したいのである。
(1) (a, a) = (1/4)(|2a|2 - |0|2) = |a|2.
(2) [交換法則] (b, a) = (1/4)(|b + a|2 - |b - a|2) = (1/4)(|a + b|2 - |-(a - b)|2) = (1/4)(|a + b|2 - |a - b|2) = (a, b).
(3) 残りの二つが難しい。 ここでは連続性を用いる。
先ず (a, c) + (b, c) =
(1/4)(|a +
c|2 - |a - c|2) +
(1/4)(|b +
c|2 - |b - c|2)
= (1/4)(|a +
c|2 + |b +
c|2) - (1/4)(|a - c|2
+ |b - c|2).
ここで (a) を用いると
(a, c) + (b, c) =
(1/4)(1/2)(|a +
c + b +
c|2 + |a +
c - b - c|2) - (1/4)(1/2)(|a
-
c + b -
c|2 + |a -
c - b + c|2)
= (1/8)(|a + b + 2c|2 + |a
- b|2 - |a + b - 2c|2
- |a - b|2)
= (1/8)(|a + b + 2c|2 - |a
+ b - 2c|2)
= (1/2)(|(a + b)/2 +
c|2 - |(a + b)/2 -
c|2)
= 2・(1/4)(|(a + b)/2 +
c|2 - |(a + b)/2 -
c|2)
= 2((a + b)/2,
c).
ここで 2 が中 (前) に入れられればいいのだが, それも証明しなければいけない。
先ず (0 , b) = (1/4)(|0 + b|2 - |0 - b|2) = (1/4)(|b|2 - |b|2) = 0. 従って, 今分かった (a, c) + (b, c) = 2((a + b)/2, c) に於いて b = 0 と置くと(a + b)/2, c)
(a, c) = 2(a/2, c)… (b)
x = a/2, y = c と置き換えると (2x, y) = 2(x, y). つまり括弧の前の 2 を中 (前) に入れられることが分かったので
(a, c) + (b, c) = 2((a + b)/2, c) = (a + b, c).
これで分配法則が成立することがいえた。
さて今度は (b) から (a/2, c) = (1/2)(a, c). 以下帰納的に n ∈ Z に対し (a/2n, c) = (1/2n)(a, c). 更に上記により分配法則が成立するので, K を二進小数の集合とすると k ∈ K ⇒ (ka, c) = k(a, c). 良く知られているように, K は R の中で dense (稠密) なので, 「長さの連続性」 により 一般に k ∈ R に対して (ka, c) = k(a, c) が成立する。