固有値と固有ベクトル


本 page 以降のいくつかの pages では, 基底の変換によって変換された, 相似な行列として出来るだけ簡単なものを選ぶということを考えていく。


行列の中で最も簡単な行列は零行列 0 であるが, どんな正則行列 P に関しても P-10P = 0 であるから A〜0 ⇒ A = 0. 即ち 0 は 0 とだけ相似である。


その次に簡単な行列は, 単位, 原点対称, 相似変換も含めた行列

kI2 =

である。 この行列はスカラー行列 scalar matrix と呼ばれる。 しかしこれもどんな正則行列 P を持ってきても P-1(kI2)P = k(P-1I2P) = kI2 である。 従ってスカラー行列も自分自身とだけ相似である。


その次に重要で簡単な行列は dilatation matirix と呼ばれる行列。

D = Diag(α, β) =

である。 普通行列 (ajk) に於いて, 成分 ajj主対角成分 (main) diagonal element というので, 対角行列 diagonal matrix と呼ばれる。

計算してみると分かるが, P-1DP は見かけ上様々な行列になる。 後にどのような基底の変換をするとこの行列になるのかを調べる。

すぐ分かるように

De1 = = αe1,
De2 = = βe2

であるから, もしも A〜D であるとすると

Ap = αp … (1)

となる vector p (≠ 0) と scalar α があるはずである。 この scalar α を, 行列 A の

固有値 eigenvalue, proper value

p を行列 A の固有値 α に対応する

固有ベクトル eigenvector, proper vector

という。

次にこれらの求め方を調べる。 上の (1) 式から αp - Ap = 0. ここで αp = αI2p であるから (αI2 - A)p = 0. もしここで行列 αI2 - A が正則行列ならば (αI2 - A)-1 をこの両辺から掛けると p = (αI2 - A)-10 = 0 であって, 仮定 p ≠ 0 に矛盾する。 従って行列 αI2 - A は退化しているので det(αI2 - A) = 0 である。 この式から

ΦA(t) = det(tI2 - A)

と置いて, これを行列 A の固有多項式 eigenpolynomial といい, これに対応した

ΦA(t) = 0

を行列 A の固有方程式 proper equation という。

今 A = (ajk) と置くと, 固有多項式は

ΦA(t) = det(tI2 - A)

= (t - a11)(t - a22) - a12a21
= t2 - (a11 + a22)t + a11a22 - a12a21

である。 ここで t の一次の係数を

tr(A) = a11 + a22

と書いて行列 A の trace, Spur という (普通英語でトレースという)。 従って固有多項式は

ΦA(t) = t2 - tr(A)t + det(A)

とも書ける。


ここで固有値, 固有ベクトルとは直接関係はないが, 次の定理を述べておく。

定理 [Cayley-Hamilton]

行列 a の固有多項式を ΦA(t) とするとき ΦA(A) = 0.

ここで A が二次正方行列の時は上記から ΦA(A) = A2 - tr(A)A + det(A)I2 = 0 を意味している (定数項に単位行列 I2 が掛けられていることに注意)

証明:

実際に代入して計算してみる。 証明すべき式は A2 = tr(A)A - det(A)I2 であるから, A = (ajk) として


となるので確かに一致する。□


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